調査レポート
全社で奏でるマーケティング
"マエストロ・アプローチ"が生み出す共感と成⾧とは
5分(読了目安時間)
2024/04/19
調査レポート
"マエストロ・アプローチ"が生み出す共感と成⾧とは
5分(読了目安時間)
2024/04/19
顧客と共感を伴った関係を築くことは企業の将来にとって非常に重要である一方、世界的に不安定な状況やテクノロジーの進化、ますます予測不可能になる消費者の影響で、関係の構築と維持はかつてなく難しくなっています。長らく顧客との関係を司る立場にあったマーケターは、絶え間ない変化にどのように対応できるでしょうか?
さまざまな業種・部門の経営幹部1,150人を対象にアクセンチュアが実施したグローバル調査では、多くの企業(66%)においてマーケターが今もなおブランドに関する会話を完全にコントロールしようと必死になっていることが分かりました。一方、25%の企業ではマーケターは完全なコントロールはもはや不可能であることを受け入れつつ、不確実性に苦しみ適応できずにいます。
9%
マーケターのわずか9%が「マーケティングはもはや単独で行うものではない」と理解している
しかし、異なるアプローチで成功を収めている企業がわずかに(調査対象企業の9%)いることが明らかになりました。成功しているマーケターは、マーケティングはもはやマーケティング部門による"独奏"ではなく、全社にいる演奏者がそれぞれのパートを奏でる"交響曲"であると理解しています。そして、マーケターはスポットライトを浴びながら演奏者をまとめる指揮者なのです。
「私はマーケティングをオーケストラの指揮者のように考えています。例えばマーケターは“木管楽器”の奏者の採用はその領域を専門とする人に任せます。マーケターの仕事は、グループ全体がうまく協働できるようオーケストレーションの役割を担うことだからです」
Jane Stiller氏 / ITV CMO(最高マーケティング責任者)
トップクラスの業績を上げている企業は、マーケティングを孤立した機能から全社的な能力へと再定義しています。彼らのマーケティングリーダーは、「マエストロ・アプローチ」と呼べる手法をとっています。つまり、マーケティングに関する会話を端から端までコントロールしようとするのではなく、サイロを打破し、部門を横断したコラボレーションを促進し、成長と共感をもたらす広範な戦略の取り組みを主導しているのです。彼らはマーケティングのスキルを他部門に普及させつつ、皆が共通の顧客像という北極星に集中できるようにします。このようにマーケティングが会社全体に浸透した能力となったとき、マーケター自身はそれぞれ異なる部門をつないで調和させる役割を担い、ビジネス目標を追求してイノベーションを推進するリーダーとなるのです。
私たちの調査では、マーケティング部門と他の部門との間に強力なコラボレーション関係がある企業はすべて、同業他社よりも最大4%の収益成長を実現したことが明らかになりました。マエストロ・アプローチの効果も相まって、それらの企業の内「これまで以上にブランドをコントロールできるようになった」と回答した企業は他社よりも33%多いことも分かりました。
マエストロ・アプローチをとる企業は、市場投入スピードで1.8倍、顧客生涯価値(LTV)で1.6倍、それぞれ他社を上回ります
マエストロ・アプローチはライフ起点であるため、マーケターと組織全体は変化する顧客に柔軟に対応できるようになります。ライフ起点のアプローチでは、顧客を予測不可能な外的要因に対応し常に変化する多面的な個人として理解し、変化し続けるニーズや優先事項に応えることをビジネスの中心に置きます。このアプローチは、テクノロジー、人材、コラボレーションを起点にマーケティングを再構築することで、企業内のあらゆる機能の継続的な変革により成長を促進し、業務を最適化する戦略であるトータル・エンタープライズ・リインベンション(企業全体の再創造)の追求を支えます。
マエストロ・アプローチをとるマーケターは、次の4つの方法で共感を通じた成長への道を切り開いています。
マーケターは、複雑で変化し続ける存在として顧客を捉えることが、顧客との価値ある関係を築くために必要だと理解しています。マエストロ・アプローチを採用している企業は、マーケティングを2つのレイヤー(個別業務を実行する従業員と、全社横断で機能する戦略的な能力)の建付けにする傾向が他社より33%高いことが分かりました。ブランドに関する会話や顧客体験に関与する部門が増えるほど、マーケター自身の役割は全体的な戦略を導く方向に移行します。
複雑さを増すカスタマージャーニーに適切かつ素早く対応するため、マーケターは社外・社内と適切な関係を築かなければなりません。部門間の垣根を取り払ってつなげれば、隠れた価値や機会を見出せるでしょう。例えば、マエストロ・アプローチをとる企業が「マーケティングと人事が緊密に連携している」と回答した割合は、他社よりも19%高くなっています。
企業は提供する製品・サービスにおいてだけでなく、そのオペレーションにおいても「シンプルさ」を追求する必要があります。
全社的にかつてない数の従業員が顧客と接点を持っていますが、多くの企業で連携できていません。テクノロジーを使って次の2つのステップを踏むことで、連携を進めることができます。
これにより、状況が変化する中でもすべての部門が生産的に活動でき、マーケターは自らの役割である顧客インサイトの深化に注力できます(これを実施するマエストロ・アプローチをとるマーケターの割合は、他社よりも32%高い)。その結果、部門間でのデータやインサイトの共有が進み、変化する顧客ニーズや外的要因により確かな知識とスピードで対応できるようになるのです。
人間の創意工夫とテクノロジーを結びつければ、成功をさらに拡大することができます。クラウドベースのデジタルコア、データ主導のインサイト、AIを活用したイノベーションによって、体験を最適化し、変化に素早く対応し、既存のリソースでより多くのものを提供できるのです。
私たちの調査では、マエストロ・アプローチをとるマーケターはデータを重視することが分かりました。「2年前と比べて多くのチャネルからデータを収集している」に強く同意した割合が他の回答者より23%高いのです。また、データやデジタル/プログラミングのスキルが将来のマーケティングニーズに応えるために不可欠であると考える傾向も、他社よりも高いことが明らかになっています(データに関しては18%高く、デジタル/プログラミングに関しては34%高い)。またマエストロ・アプローチをとることで、マーケターは人間とテクノロジーのコラボレーションの可能性を追求できるようになります。生成AIをはじめとするテクノロジーの発展により、これまでにない方法で全社的に業務を自動化して共有することが可能になり、マーケターは自由に豊富な知見を広めたりあらゆる部門での応用を加速したりすることができるようになります。
マーケティングはマエストロ・アプローチをとることで、従来の業務上のサイロから解放され、多くのプレーヤーが関わる部門横断的な能力として活躍することができるでしょう。マーケターが、将来を見据えて全社で奏でる交響曲の指揮者となり、戦略的なハーモニーの中で人間とテクノロジーが協働するのです。このアプローチを進んで受け入れる企業こそ、絶え間ない変化に応じてイノベーションを起こし、共感を通じた成長への扉を開くことができます。