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調査レポート

妥協しないコマース

収益性を犠牲にせず顧客に寄り添うコマースを実現するには

5分(読了目安時間)

2024/04/19

概略

  • 顧客との関係と共感を育む(もしくは壊す可能性もある)コマースは、ブランドと成長を築きます。しかし、今日のコマースで成功するために必要なものをすべて備えている先行企業はわずか20%であることが明らかになりました。

  • 大胆かつ革新的な先行企業は、他社とは異なるやり方でコマースの基礎を確立し、継続的な見直しを行っています。

  • 先行企業は複雑さをチャンスに変え、収益成長向上85%、収益性向上31%の成果を出しています。

複雑さからチャンスを掴むには

企業が成長を促進し、従業員はやりがいのある仕事ができ、顧客は自分の生活のリズムに応じた体験を得られる。そんなチャンスがコマースにあることは明らかです。しかし、チャンスには複雑さが伴います。顧客、市場、チャネル、ビジネスモデル、そして企業自体の急速かつ継続的な変化は、コマースのオペレーションをより複雑なものにすると同時に、コスト増というもう一つの課題も生みます。

経営層のコマースに対する見解と戦略を理解するため、私たちは12業界・16カ国の企業のコマースを主導する経営幹部1,300人を対象に調査を実施しました。95%の経営幹部が「コマースに対して適切な投資を行った」と考える一方で、収益性の高い形でコマースを管理し成果を実現している企業はわずか20%に留まることが分かりました。これらの先行企業は、収益、収益性、非財務的な指標、そしてビジネスとそのステークホルダーのために成果を上げています。

調査からは、「先行企業」「現状維持企業」「妥協企業」の3つのグループに分かれることが見えてきました

妥協企業(25%)は成果を出せていない

最新の“光り輝く流行”を追いかけるが、受け身のため顧客の生活に対応できていない。

現状維持企業(55%)は何とか耐えている

これまで通りのビジネスを何とか維持している。リーダーシップ、企業文化、組織の抵抗により変化は遅い。

先行企業(20%)は成功している

顧客満足とコマースの成果の両方を得ている。それは先行企業が新たな企業価値創出の道筋を切り開くための変革に最大限コミットしているからである。

先行企業の成果は妥協企業を上回っている

85%

収益成長向上

31%

収益性向上

先行企業の特長

先行企業は業界の常識にとらわれない現実主義者で、環境の変化と共にビジネス変革が必要なことを理解しています。

私たちの分析からは、先行企業はデジタルを起点としたコマースの基礎を確立することに重点を置いて投資し、最新トレンドを追いかけるのではなく長期的な強みを築くことにエネルギーを注いでいることが分かりました。先行企業は、顧客体験、テクノロジーのイノベーション、オペレーショナルエクセレンス、人材・組織を含むコマースの基本的な要素において最高レベルの成熟度に達しています。しかし、コマースは常に変わり続けていることを知っている先行企業は、同じところに長く留まりません。継続的な見直し、評価、改善は、先行企業のすべての組織DNAに組み込まれているのです。

先行企業になるための再創造は、「収益性と顧客体験の価値を向上させるために、コマースの仕組みをシンプルにする」という大前提に基づくものでなければなりません。優れた顧客体験を提供できるテクノロジーへの投資を優先する企業もあれば、オペレーションや人材の改革を優先する企業もいますが、それらの最適なバランスを計画して取り組むアプローチこそ、先行企業としての潜在能力を最大限に発揮するための道筋です。顧客体験、テクノロジー、オペレーション、人材に関する能力を、いずれかにコストをかけすぎることなく同時に構築するのです。この道を行くには、ビジョン、時間、適切なリソースが必要です。コマースをアジェンダの中核に置いていない企業からコマースの先行企業になるには、CEOが強力に支援し経営層全体がしっかり連携した上で関与しなければなりません。

Business class
Business class

先行企業への道筋

どのようにアプローチするとしても、コマースの基盤全体にバランスよく投資することが重要です。4つの基盤で優先すべきことは次の通りです。

1. 顧客体験:顧客を人間として捉える

コマースを人間味あるものに―テキストチャットを通じた人間のアドバイザーとのやり取りからライブストリーミングの製品デモまで、人間とデジタルのハイブリッドなインタラクションを組み込むことで、人間同士の関係を主役にしましょう。そこで目指すべきは、コマースジャーニーのすべてを"ソーシャル"にすることです。生成AIは大きな可能性を秘めています。インフルエンサーのアドバイスや声を基にした言語モデルを学習した生成AIが、人間のコミュニケーションを拡張できる可能性を想像してみてください。

データを共有しインサイトを深める―カスタマージャーニー全体を網羅したデータ分析によって、生活状況の変化といったコンテクストの中で人々を理解しつつ、顧客インサイトを体験設計に継続的にフィードバックできるようにしましょう。異なるシステムがデータを共有できるようテクノロジーのアーキテクチャーを統合するレイヤーを加え、インサイトに基づいて従業員が素早く動けるようにするのです。

コマース体験をブランド体験に―どうしたら顧客にとって真摯で、的確で、手に届きやすく、生き方に寄り添ったブランドになれるかを理解することが重要です。将来のブランド・エクイティ(ブランドの資産価値)を築くには、コマースにおいてブランド体験を実現できるようブランドパフォーマンスとマーケティングを変革しなければなりません。というのも、コマースこそ人々がブランドを体験する場だからです。

2. テクノロジーのイノベーション:快適で楽しいコマース体験をデザインし、顧客ニーズに応える

未来のコマースを創る―「あらゆる場所がコマースになる」環境で成功するには、旧来のアーキテクチャーや「個別のパッケージを購入してカスタマイズする」アプローチでは対応できないため、異なるチャネルを横断して容易に構成できる汎用性の高いアーキテクチャーに置き換える必要があります。このように組み換え可能なコマースのアプローチをとることで、新しい体験を素早く市場に投入し、データ駆動型の業務を促進し、変化するビジネス環境に迅速に対応できるようになります。

強力なデジタルコアを構築―クラウド、データ、AIなどのデジタルコアを通してコマースの組織全体で情報源を共有し、人材、プロセス、テクノロジーのROIと成長を高めましょう。共通のデジタルコアで組織のサイロ化を解消し、インサイトと精度を向上させることができます。

AIを活用―バズワード扱いを脱して、生成AIを実際に活用する時です。ダイナミックプライシング、商品企画、コンテンツ制作、カスタマーサービス、需要計画、マーケティングのパフォーマンスなど、コマースのユースケースとしてどの領域が有望かを探りましょう。すぐそこに迫る新たな可能性を掴めるよう、最新の発展を注視することも重要です。

「投資効果が高くなっていくことを期待し、今まさにAIや先進技術を使っています。それにより、今後さらに多くのものを開発できるでしょう」

消費財メーカーの経営幹部

3. オペレーショナルエクセレンス:チャネルを追いかけるのではなく、ビジネスに焦点を当ててコマースの基盤をシンプルに再創造する

オペレーション設計は計画的に―主要な責任をしかるべき部門に明確に割り当てるオペレーションモデルを設計し、パフォーマンスを向上させましょう。例えば、行動基準を設定しプレイブックとガバナンスの統括を担当する部門と、実行とビジネスの磨き込みに責任を持つ部門を分けるなどです。

オートメーションの強化―複数の市場、言語、チャネル、製品カテゴリー、異なる需要期を管理するコマースにおいて、自動化はその複雑さを解消するのに特に有用な手段です。パフォーマンスのスピードと一貫性を向上させ、人間がより戦略的で満足度の高い仕事に集中する時間も確保してくれます。

センターオブエクセレンスの活用―コマースの機能を集約することで、人間+マシンによる工業化されたサービスを活用するセンターオブエクセレンスの戦略をとれば、需要に対して最新のテクノロジーとキャパシティで柔軟かつ高い品質で応えることができます。主要な市場で実行力を発揮するため、センターオブエクセレンスは戦略的に配置するべきです。

4. 人材と組織:成長に向けて拡張するよう、コマースの組織を継続的に作り変える

成功を目指す人材育成―ビジネス価値を生み出すためのリスキリングや新たなスキルを習得させる取り組みを通じて、従業員の能力を構築・開発しましょう。例えば、クリエイターと混合チームがコマースチャネルに特化したデザインを行うために、マーケティングや営業と連携できるよう研修するなどです。

人間と生成AIをつなぐ―パフォーマンスを向上させ、創造的かつ革新的な方法で仕事をするために生成AIがいかに役立つかを示して、人々の不安を和らげましょう。生成AIと共に働き成長することに慣れるよう、学習しやすいオープンな環境を整えることが大切です。

境界を超え続ける―継続的に改善し続けるという精神を企業文化に組み込むことが大切です。たとえ先行企業でも、さらに良くするためにできることは常にあります。新しいビジネスモデルや収益化モデルの実現可能性を追求・評価し続けましょう。

「私のチームや私自身だけではなく、企業全体で新しいマインドセットを受け入れる必要があります。これまでの習慣や根付いた考え方を変えるのですから、簡単なプロセスではありません」

グローバル飲料メーカー経営幹部

先行企業の取り組み

65%

先行企業が「顧客体験を上手く管理している」と回答した割合は妥協企業より65%高い

51%

ビジネスプロセスを最適化し顧客体験を差別化するためにAIに投資している先行企業の割合は妥協企業より51%高い

52%

「コマースを推進する責任者を明確にしている」と回答する先行企業の割合は妥協企業より52%高い

17%

継続的に従業員を再教育している先行企業の割合は妥協企業よりも17%高い

変化を選ぶのはあなた自身

最新の“光り輝く流行”を追い続けるのか、それともこれまで通りのビジネスにしがみつくのか。または、先行企業となり妥協のないコマースを提供するために必要な変化を起こすのか。企業は選択を迫られています。

筆者

Fabio Vacirca

Global Lead, Commerce

Rajat Agarwal

Commerce Industry Lead – Accenture Song

Juliana Azuero

Global Commerce Research Lead – Accenture Research