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調査レポート

生成AI時代における「再創造」の在り方

10分(読了目安時間)

2024/01/12

概略

  • 創造的破壊の乱気流が勢いを増すなか、トータル・エンタープライズ・リインベンション(TER:企業全体の再創造)が成功を掴み取るための唯一の解となりつつあります。

  • 「リインベンターズ(再創造企業)」が再創造の先駆者として成果を創出し、他者にも大きな影響を与え始めています。

  • 生成AIは再創造の加速に寄与し、パフォーマンスギャップを埋める機会をもたらします。

  • 経営幹部が生成AI時代に「再創造」を実現するためには、5つの必達課題があります。

 

「再創造」こそ成功への道筋

今後12〜24ヶ月の間に、生成AIを「再創造」の触媒とする企業が大幅に増加すると予測 

生成AIは、近年見られた他の技術革新となにが異なるのでしょうか? それは、このテクノロジーが、組織のあらゆる側面で再創造を巻き起こす力を持っている点です。

生成Alがあらゆる業界へ急速な創造的破壊をもたらすことにより、これが証明されつつあります。

創造的破壊が限界に達した時

企業は引き続き不安定な環境下での経営を余儀なくされています。アクセンチュアが毎年発表する「Pulse of Change Index」によると、事業に影響を与える変化の度合いは、2019年以降継続的に上昇し、過去4年間で183%に達しています。これを受け、83%の企業が、昨年より自社の変革を加速させています。

創造的破壊が前年比33%増加

Accenture Pulse of Change: 2024 Index

再創造の広がり

多くの企業が再創造に熱心ですが、その進捗状況はまちまちです。

 一部の企業(9%)は「リインベンターズ(再創造企業)」と呼ばれ、継続的な再創造のためのケイパビリティを構築するという高い目標を既に達成しています。彼らはこの戦略を迅速に実行し、テクノロジーを自社が目指す再創造の中心に据えることで、企業価値の新たなフロンティアを生み出そうとしています。

特に年商50億ドル以上の大企業では、リインベンターズ(再創造企業)が昨年比で4倍に増加しました。業界を代表する大企業たちは動きを止めず、デジタルコアやデジタルリソースの構築に莫大な投資を行うことで、デジタル革命において後れをとった二の轍を踏むことなく、自らが主役になろうとしています。特に、ソフトウェアプラットフォームでは43%(34ポイント上昇)、ライフサイエンスでは20%(13ポイント上昇)と、2つの業界ではリインベンターズの数が実に2桁も増加しています。

全社の命運をかけて再創造に取り組んでいる企業は少数派であり、大半の企業はまだその道を歩み始めたところです。昨年と同様、81%の企業は「トランスフォーマーズ (変革途上企業)」に留まっています。トランスフォーマーズは引き続き変革を進め、「再創造」に向けて着実にステップを踏んでいます。ただし、継続的に「再創造」を巻き起こす持続性に劣ることで、スピード感とコスト効率を享受できていない可能性があります。その結果として、リインベンターズと比較すると財務パフォーマンスに差があることも確認されています。「オプティマイザーズ(部分最適企業)」と呼ばれる残り10%は、現在再創造に向けた取り組みが優先されていない企業です。

リインベンターズの成果をみて、他社もこの動きに真摯に向き合っていく必要があるでしょう。

リインベンターズは、今後3年間で他社との企業価値の差をさらに大きく広げると予想される

ソース:2019- 2022=CAGR(年平均成長率)は実績データに基づく。2023 - 2026=アクセンチュアの「再創造」に関する調査(ストレステスト結果とアナリスト予想に基づく)による。
ソース:2019- 2022=CAGR(年平均成長率)は実績データに基づく。2023 - 2026=アクセンチュアの「再創造」に関する調査(ストレステスト結果とアナリスト予想に基づく)による。

ソース:2019- 2022=CAGR(年平均成長率)は実績データに基づく。2023 - 2026=アクセンチュアの「再創造」に関する調査(ストレステスト結果とアナリスト予想に基づく)による。

先手必勝の取り組みと戦略的な賭け

生成AIは、従来のテクノロジー革命とは異なります。過去数十年間で、企業のあらゆる側面に抜本的な影響を与える可能性がある技術はありませんでした。これが、私たちが「再創造」の観点から生成AIに多大な期待を寄せる理由です。このテクノロジーの真の価値を解放させ得る企業こそが、自らの再創造を果たすことができるのです。

アクセンチュアの調査によれば、大半の企業は、依然としてコンテンツ生成や顧客対応など自明な領域にのみ焦点を当てており、戦略的かつ大胆な活用には至っていません。しかし、一部のリインベンターズまたは将来のリインベンターズは、生成AIを先手必勝で取り組むべき領域(No Regrets)にとどまらず、戦略的かつ企業の命運をかけた賭け(Strategic Bets)にも積極的に取り組もうとしています。

リインベンターズが理解していること:

  • 生成AIは、バリューチェーン全体に影響を与え、企業価値の新たなフロンティアを創造しうる斬新なテクノロジーである。 

  • 生成AIを通じた再創造を実現するには、特定事業機能に閉じた個々のユースケース焦点を当てるのではなく、エンドツーエンドでのビジネスケイパビリティを構築することが必要である。

  • エンドツーエンドのケイパビリティを開発するには、プロセス、ヒト、テクノロジーを横断した緻密な変革が必要。プロセスを再定義し、人々をリスキリングし、デジタルコアにデータと生成AIの基盤を構築する必要がある。

生成AI活用の実際

300万時間の削減

ある政府機関は、この最新デジタルテクノロジーを徹底的に活用し、迅速かつ大規模に自動化を実現しました。その結果、300万時間分の運用時間を削減することに成功しました。

1600万パターンの顧客価値提供

ある銀行は、わずか3ヵ月で構築した生成AIを活用したマーケティングソリューションにより、1600万パターンのハイパーパーソナライズされた顧客サービスを提供しました。

売上高を10%増加

ある保険会社は、引受査定のプロセスを抜本的に作りかえ再創造することで、売上高を10%増加させる可能性を手にしました。

「明日」を作り上げるために、今を再創造する

生成AIは、再創造を加速する可能性をもたらします。それを享受するためには、経営幹部が取り組むべき5つの必達課題が存在します。次に、具体例を示しながら、それらについて説明します。

 

生成AI時代に経営幹部が取り組むべき5つの必須課題

1.

価値に力点を置いて推進する

2.

AI活用とセキュリティを大前提としたデジタルコアを備える

3.

人材と働き方を再創造する

4.

責任あるAIに関する能力を担保する

5.

再創造を継続的なものとして推進する

1. 価値に力点を置いて推進する

個々のユースケースに盲目的に取り組むのではなく、バリューチェーン全体を見渡したうえで、各々の変革が全体にもたらす価値、企業としての変革への備えの状況、投資対効果を加味して、焦点を当てるべきビジネスケイパビリティを特定します。投資アプローチとしては2つ方向性があり、抜本的な生産性向上を目的とした投資と、業界構造そのものを変革するような斬新かつ企業の命運をかけた戦略的な投資です。

アクション 1

個々のユースケースに焦点を当てるのではなく、生成AIや新しい働き方により全体的なビジネスケイパビリティを向上さることでもたらされる、バリューチェーン全体の再創造の可能性に着目する。

アクション 2

顧客価値や事業価値を目的変数に、生成AIを用いたビジネスケイパビリティの再創造を志向する。

アクション 3

競合他社による模倣可能性が低い、テクノロジーを梃子にした差別化の源泉となる、戦略的な投資領域を特定する。

アクション 4

機能部門ごとにサイロになった組織構造を、エンドツーエンドのビジネスケイパビリティと、全社統一されたデータアーキテクチャと機能横断的なチームによる全社目線での意思決定モデルへと組織構造を転換する。

ロシュ:データ駆動型のがん治療を提供するため境界を取り払う

がん患者の個々の状態に合わせた治療を提供するには、治療ライフサイクル毎の障壁を取り払った新しい働き方が必要です。ロシュは、様々なソースからデータを集約するプラットフォーム「オンコロジー・ハブ」を構築しました。これは、すべての患者データを安全に管理し、医師同士が協力して統合的な治療計画を立てる為の「場」を提供します。このプラットフォームにより、一刻の時間が命を左右する医療の世界において、患者がより早期に治療を受けられるようにすることが可能です。

2. AI活用とセキュリティを大前提としたデジタルコアを備える

新しいケイパビリティをシームレスかつ継続的に生み出すできるテクノロジーに投資することが重要です。生成AIの価値を享受するには、従来のエンタープライズアーキテクチャとは異なるアプローチが必要であり、非構造化データや合成データを含めたデータ流動性が重要性を増しています。また、毎週のように生み出される基礎モデルを、適切に選択して活用していくことが求められます。エコシステムパートナーを含めたAI基礎モデルを、柔軟に取り込めるアーキテクチャ構造の「AI活用を前提とした」アプリケーションが求められます。リインベンターズ(再創造企業)は、デジタルコアの獲得を重要な能力として優先的に取り組んでいます。

今年後半に予定されているデジタルコアに関する最新研究にご注目ください。

アクション 1

自社にとっての「デジタルコア」とは何かを認識し、自社のテクノロジーを戦略的目線で見つ目直すことを通じて、業界固有性を持ち、最も重要、かつ生成AI活用のキーとなる、自社のデジタルコアがどれなのかを特定する。

アクション 2

データと生成AIの基盤が何であり、それを構築するためにはどのような取り組みが必要かを理解する。

アクション 3

CIOにテクノロジーのライフサイクルにおいて早期にサイバーセキュリティを埋め込み、強固なセキュリティカルチャーを確立を担保させ、レジリエンスを獲得する。

アクション 4

保有しているテクノロジーや、関係性のある専門家やコンサルタントなどのエコシステムを理解し、彼らと協力して「再創造」のサイクルをより迅速かつ効果的にするための戦略を定める。

アクション 5

テクノロジーへの投資のうち、50%以上が新しい価値を生み出すことに使われるよう、厳格に状況を見極め、必要な変革を断行する。

東南アジアの国営石油会社:データ量を簡素化する

このクライアントは、多種多様な形式で膨大なデータを保有しており、毎日新たなデータを産み出しています。この問題を包括的に検証し、生成AIと全文検索を導入することで、データから最大限の価値を引き出し、新たな成長を実現しました。この新たな「知の源泉」には、構造化・非構造化データによる25万点以上の文書を取り込んでおり、必要な情報を選択した書式で取得することができます。これにより、情報収集が最小限の手数で実現でき、組織の様々なシーンで行われる情報・知見収集プロセスの自動化と、事故の削減にも役立っています。

3. 人材像と働き方を再創造する

生成AI時代に向けて、業務の再構築、従業員の育成、人員配置の最適化に関してビジョンを掲げ導くことが求められています。リインベンターズ(再創造企業)は、他の企業と比較して今後3年間で労働生産性を20%以上向上させる可能性が2倍高いと思われます。調査によると、3人に2人が生成AIによって仕事が充実して意義深いものになると考えており、95%の経営幹部が、生成AIが新たな雇用を創出すると考えています。つまり、人々の変革への参加を促し、企業カルチャーを抜本的に変革していくような、新たなスキルを持つリーダーが必要になるでしょう。

アクション 1

全ての生成AIのユースケースによって、働き方がどのように変わり、人々の役割に影響をあたえ、求められるスキルを明文化した、新たな人材戦略を策定する。

アクション 2

人間を中心に据えた変化に対する強力な適応体制を具備することで、生成AIが人々のすべての立場や受け入れ感に影響するかを把握しながら進める。

アクション 3

再創造を推進するために必要なケイパビリティを得る継続的な学習の場を作り、従業員が生成AIに関する市場価値のあるスキルを身につけ、変革に積極的に参加するよう促す。

アクション 4

人事のケイパビリティを見直し、再創造のビジョンを実現するために必要なスキルとテクノロジーに投資する。人事がビジネス戦略の中心的な役割を果たす。

アクション 5

自社で働くことで、従業員のネットベターオフ(正味幸福度の向上)の実現に向けてエンプロイーバリュープロポジション(従業員価値提案、EVP)を見直し、生成AIの活用がそのコミットメントと一致していることを担保する。

バイオ医薬品企業:野心を実現する「再創造」

このクライアントは、新しい治療法の探索と開発を得意とする、最高水準の調査研究力を備えた企業を目指しています。その野心を実現するため、起業家精神や新しい働き方を促進するためのリーダーシップトレーニングと体験の創造に取り組んでいます。この設計プロセスへの必要な人々のな参加、数千人の従業員が生成AIの専門家になるためのスキルアッププログラム、適切なタイミングで適切な人材を投下することなどが含まれます。

4. 責任あるAIに関する能力を担保する

AIを設計、展開、利用することでリスクを提言しながら価値を追求する。ほとんどの組織(96%)がAIに関する政府規制を一定程度支持していますが、責任あるAIを組織全体で完全に運用している企業はわずか2%しかありません。意志と実態のギャップは非常に大きく、解消すべき問題です。このギャップを埋めるためには、リスク管理や倫理的・持続可能なAIの使用に関する責任あるAIのフレームワークの整備のみでは不十分です。コミットメントやフレームワークから具体的な行動へ移行するための実行可能な計画が必要です。

アクション 1

AIの設計、展開、利用に明確な説明責任とガバナンスを持った責任あるAIの原則を採用する。

アクション 2

責任あるAIの原則をプログラム化し、必要なリソースや技術へ投資して実践する。

アクション 3

AIの開発や導入において、責任あるAIの原則を守りながら最も重要なユースケースから順に処理していく。すべてのユースケースについてリスクを明確にし、どう軽減するかを説明できるようにする。

アクション 4

組織内の異なる職能や部門が協力し、労働力に与える影響や法令遵守、持続可能性、プライバシーやセキュリティのプログラムに取り組む。

シンガポール金融管理局:画期的な責任あるAIプログラムを実現

シンガポール金融管理局(MAS)は、責任あるAIプログラムを持った最初の金融規制機関の1つです。MASは業界コンソーシアムであるVeritasを設立し、金融サービス機関(FSI)が公正性、倫理、説明責任、透明性の原則に基づいてAIとデータ分析ソリューションを評価する支援を行っています。Veritas内のコアチームが方法論フレームワークを開発し、これらの原則を実現化することで、FSIは責任あるAIによって世界中の数十億人におよぶ消費者に対して公正な未来を築きながら、AIから価値を得ています。

5. 再創造を継続的なものとして推進する

変化が起こり続けることを踏まえれば、再創造にも終わりはありません。組織は継続的な再創造を行う必要があります。再創造を数年に一度の一過性の取り組みとしてではなく、継続的に行うためのケイパビリティを身に着け、変化を起こすことを組織のDNAとして昇華する必要があります。これは、新しい考え方に対してオープンな姿勢を持ち、継続的な変化に対する意識を養い、生成AIを必要な時に必要な規模で活用できる柔軟なデジタルコアを持つことを意味します。

生成AIは人工知能を民主化し、テクノロジーをより人間らしくしました。これによって、テクノロジーによるバリューチェーン全体の再定義の可能性がたかまり、再創造への道筋は1年前よりもはるかに速くなったのです。テクノロジーと人の創造力を組み合わせることの重要性を認識しながら大胆な再創造に取り組む組織は、長期的な価値を生み出し、持続的なレジリエンスを築くことができるでしょう。

再創造はあなたのビジネスをどこへ導くのか?

アクセンチュアの業界特化型診断は、組織が成功する再創造の計画を立て、企業全体で生成AIを最も効果的に活用する方法を明確にするのに役立ちます。当社のAI Navigator for Enterpriseなどの独自ツールは、生成AIをベースとしたプラットフォームであり、再創造に向けた取り組みをサポートし、企業価値向上を推進します。

生成AIアプリケーションの責任ある利用を通じてビジネスを再創造する方法を探るため、世界中にある生成AIスタジオを訪れてください。詳細については、当社のレポートをお読みいただくか、お問い合わせください。

筆者

廣瀬 隆治

執行役員 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ日本統括

Jack Azagury

Group Chief Executive – Consulting

Muqsit Ashraf

Group Chief Executive – Strategy

Oliver Wright

Senior Managing Director – Global Consumer Industries Group Lead

Karen Fang Grant

Managing Director – Industry Networks & Programs, Global Research Lead

Mike Moore

Principal Director – Accenture Research