UN-R155サイバーセキュリティの要求事項は大きく2つに分けられます。
1つ目は組織に対するもので、自動車のサイバーセキュリティに関するプロセス、責任及び管理を明確にし、車両のライフサイクル全般にわたってサイバーセキュリティの管理を実施するCSMS(サイバーセキュリティマネジメントシステム)の確立を求めています。
2つ目は車両に対するもので、車両を構成する主要要素へのリスクアセスメント、リスク軽減、出荷後車両の保護、車両への攻撃監視などの実施による型式認可の取得を求めています。
また、CSMS・型式認可ともに、完成車メーカーによるサプライヤ管理の実施を明確に求めています。昨今の自動車開発において、多岐にわたる高機能な自動車部品を自社開発に比べ安価に供給するサプライヤの役割は従前に比べ非常に大きくなっています。その一方で、完成車メーカーがソースコードの開示を求めてもサプライヤの知的財産保護を理由に開示できないケースが増えるなど、企業間の力関係も大きく変わってきています。脆弱性の早期修正にはサプライヤの協力が必須であることから、完成車メーカーとサプライヤ間の連携は車両セキュリティの継続的なモニタリング・改善の実行において、非常に重要な要素です。
なお、本要求事項で特筆すべき点は、バックエンドサーバに対する要求事項が記載されていることです。ISO/SAE21434を含む自動車向けのセキュリティ基準はその主な対象を車両側とし、自動車がネットワーク接続を行なうプラットフォームであるバックエンドサーバについては触れられないことが大半でした。
UN-R155のバックエンドサーバに関する要求事項により、完成車メーカーは自動車本体に加え、エンドユーザが使用するモバイルアプリやプラットフォーム、診断ツールなど、テレマティクスシステム全体を俯瞰し、将来にわたる継続的な「システム全体に対するセキュリティ品質の維持・改善」が求められます。