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調査レポート

新たな空の利活用への備えは?

5分(読了目安時間)

2022/07/04

概略

  • 2026年までに、軌道上には1万5千以上の衛星が存在し、さらに今後も増えていくと予想されています。

  • 先進的な空の移動手段が間もなく登場し、2040年までに1兆ドルの市場規模に達する可能性があります。

  • こうした変化が「新たな空の利活用」です。

  • その可能性を引き出すためには、従来から活躍する企業と新規参入者の双方が自らのビジネス領域を考え直す必要があります。

 

新たな空の利活用経済を切り開く

新たな空の利活用は、飛行機での旅行などの既存市場において、移動や体験の革新をもたらします。また、空の新たな移動や宇宙の商業利用など、全く新しい市場も形成するでしょう。既存企業や新規参入企業に関わらず、自らのビジネス領域を見直し、生産にイノベーションを起こせるような新たな製品開発・製造手法を検討する必要があります。

新たな空の利活用が一般化するにつれ、新しいビジネスが出現します。それは、誰にとっても新しい、より良い体験を提供します。より地球環境に優しい旅行を求める消費者のニーズに応えることかもしれませんし、都市から遠く離れた僻地に衛星経由でインターネットアクセスを提供することかもしれません。または、数え切れないほどの新しい体験やサービスかもしれません。一つ確かなことは、この新たな空の利活用は、従来私たちが空の上で行ってきたことを根本的に変えていくでしょう。そしてこの急激な変化は、既存企業と新規参入者には異なる挑戦をもたらします:

  • 既存企業は、現行の人間系に頼った運営モデルやプロセス、製品だけに捉われずにゼロべ―スで考え直す必要があります。デジタルプラットフォーム、データ、人工知能など新たなテクノロジーを活用し、従来の商慣習のみにとらわれずにビジネスを運営する必要があります。その導入時にはレガシープロセスに大きな混乱をもたらさないように事前に工夫することが重要です。

  • 新規参入者は、航空領域における認証やその取得・維持する方法を理解した上で、独創的な視点を取り込む必要があります。また、製品の企画、販売、アフターサポートは時間も費用も想像以上にかさむので、効率性を最大化することが重要です。

既存企業は、自らの殻をやぶる必要がある

新たな空の利活用は、既存企業のレガシーシステム、モデル、プロセスに変革を求めます。これを克服するためには、モデルベースシステムエンジニアリング(MBSE)からの教訓を活かし、モデルベースエンタープライズ(MBE)アプローチを展開する必要があります。MBEは、エンジニアリングから製造、サプライチェーン、サポートまでを一気通貫にデジタルモデルで推進することで、ビジネスにスピードと俊敏性をもたらします。

また、既存企業ではしばしば部門がサイロ化します。MBEはこれを打破するためにも役立てられます。製品やコンポーネントに関する詳細な情報を、ビジネス機能やサプライベース、サービスパートナー、そして顧客と共有することも可能です。

「デジタルツインによるシミュレーションは、製造プロセスのすべてのステップをデジタル空間で試行し、製造現場の人間の動きさえも事前に検証することに役立ちます。」

製造業のリーダー/主要サプライヤー

MBEは作業の手戻りを減少させることにも貢献します。例えば、OEMが発注を確定する前に、サプライヤーがデジタルツイン上で部品の「フィットチェック」を行い、設計の齟齬がないかを確認することもできます。サプライヤーは、形状、適合、機能に加えて、原材料の調達リードタイムなどのパラメーターを考慮に入れ、生産計画を検討できます。この能力は、サプライチェーンやスケジュール、予算遵守に大きな影響を与える可能性があります。

新規参入者の規模拡大と認証取得

新規参入者はデジタルネイティブです。そして、それが新たな空の利活用で既存企業に対する優位性を提供します。新規参入者は意思決定も行動も早く、航空宇宙の将来の需要変動に迅速に対応できます。また、異業種間で協力し、新たなニーズにも対応できます。しかし、新規参入者は当局から認証を取得する準備もしなければなりません。新規参入者が直面する一番の課題は、量産時に必要なインフラとサプライチェーンが、試作品を作る場合よりもはるかに複雑で資本集約的であることです。

この問題に対処するためには、新規参入者は、すべてのプロセスやデータ構造を統合するオープンなデジタルコラボレーションプラットフォームの構築から始める必要があります。こうすることで、ユニバーサルなデータ標準、シームレスなデジタルスレッド、運用機能間の相互運用性がコンセプト段階から可能になります。そして、プラットフォームから常に正しい情報が得られ、製品開発を加速し、継続的な製品改善を実現できます。

プラットフォーム上のデータを通じて、通常物理的に行われる各種認証試験で必要な時間とリソースを削減します。そして、デジタルツインを支えるデータは、試験を超えて、製品が成熟し生産量が増加するにつれて、次世代でのモデルベースの製品開発へとつながるのです。

新たなスキルセットを持つ人材

製品の信頼性を維持しつつ、自動化とマニュアル作業のバランスを取ることはチャレンジとなるでしょう。今後、デジタルモデルとソフトウェア制御の工場運営が進むにつれ、従来の航空宇宙産業とは異なるスキルセットが求められます。デジタルネイティブな新規参入者と提携することで、既存企業は将来の競争力の源泉となるスキルを迅速に獲得できます。

新規参入者からの視点・デジタル技能と既存の航空宇宙産業の専門家を組み合わせることが最良の結果につながります。この組み合わせにより、プロセスに対する異なる視点と、製品モデルの力を運用全体に活用することが可能になります。

 

「イノベーションを起こす上で直面する課題の約80%は人材の能力不足に起因するものであり、残りの20%は新たな技術によるものです。」

エンジニアリング・エグゼクティブ/民間航空宇宙OEM

しかし、経験豊富な航空宇宙の人材を新しいビジネスに引き入れることは、イノベーションの柔軟性を妨げる結果につながる場合もあります。こうした問題に対処するには、新たなチームを組成し、スタートアップの速さと既存企業の管理能力を兼ね備えた人材をワンチームで機能させることです。新たな空の利活用で成功するためには、最適なチームが革新と業界常識を調和させていく必要があります。

新たな空の利活用への挑戦

新規参入者と既存企業は異なる出発点から始まりますが、目指す先は同じです。彼らはともに人材を集め、データを活用して、新製品やサービスを開発・展開する取り組みの中で、互いから多くのことを学ぶでしょう。

筆者

John Schmidt

Senior Managing Director – Aerospace & Defense, Global

Russell Bertwell

Principal Director – Aerospace and Defense

Tobias Geissinger

Managing Director – Engineering Services, Aerospace and Defense, Global

Benjamin Schuricht

Associate Manager – Engineering Services

Rushda Afzal

Research Manager – Industry X

Jeff Wheless

Principal Director – Industry X, Accenture Research