上田: 2025年の崖をキーワードとしてレガシーシステムを取り巻く状況を検討してきましたが、改めてレガシーモダナイゼーションがなぜ困難であるのかを掘り下げていきます。
アクセンチュアではお客様企業のモダナイゼーションを推進してきた中で、課題は5つに類型化できると考えています。
課題1「増え続けるトランザクションデータを見据えた設計が必要」
西尾: レガシー脱却プロジェクトは、えてして「今あるシステムの移行」に主眼が置かれがちですが、COBOLのプログラムをJava変換したことによる接続性の向上を利用して、API化したいというご要望もほぼ確実に出てきます。ですがトランザクションの急増に対応できる設計になっているかどうかについては、多くの場合で疑問が残ります。つまり、既存システムを単にJava化して動かせば良いという次元ではなくなります。
水上: キーポイントは、外部からのアクセスに対して、柔軟に対応できる設計になっていなければならないという点でしょう。レガシーモダナイゼーション自体はゴールではなく、その先にあるDXが目標です。DXの実現ではアクセス性が重要となりますが、3倍以上に膨れ上がると予想されるトランザクションに耐えられるかどうかを見据えた設計が不可欠といえます。
課題2「新しいプラットフォームへ移るだけでは、事務は変わらない」
中野: COBOLで作られたメインフレームのシステムの多くは1970〜80年代の設計です。当時は、紙ベースの業務の効率化を第1の目的としていました。たとえば、支店が営業活動し、受注データを生産拠点へ受け渡してバッチ処理で集計し、生産計画を立て、生産し、工場・倉庫から出庫、配送する。この一連の手続きの積み上げで設計されています。
これらの処理をどこまで効率化しても、業務そのものは何も変化しません。DXに向けて取り組むべきことはリアルタイム化のほか、必要なモノを必要なタイミングで、必要な人・場所への迅速な提供の実現です。これがDXの本質の1つだと考えます。つまり、現行業務(事務)のあり方の見直し・刷新といった「攻めの展開」と、レガシーからの撤退という「守りの取り組み」を両立させながら変革していくことが必要となります。
課題3「現行ベンダーの方が現行を知っているから、とモダナイゼーションでも頼る」
上田: 現行業務をしっかり把握している現行ベンダーや、そのメインフレームを長期にわたって扱ってきたSIerは、モダナイゼーションの取り組みにおいても適任だという発想に至るのは自然のように感じられます。どのような点で課題なのでしょうか。
中野: ベンダーは、お客様へ十分な支援を提供するべく、何よりもまず業務の理解に努めます。そのうえでアプリケーションを設計開発し、お客様のビジネスへの最大限の貢献を目指しています。私自身もかつてその立場でした。問題は、ユーザー企業もベンダーも、モダナイゼーションを実行するタイミングを1回以上スキップしてしまっている点にあります。そのため現行ベンダー側であっても、既存アプリケーションの設計思想を業務内容と紐づけて深く理解している人が、現場にほとんどいません。
西尾: 現行ベンダーにとっては、モダナイゼーションのプロジェクトが成功しても、失敗して現行システムを当面維持することになっても、ビジネス上のリスクが小さい仕組みとなっています。また現行のメーカーやベンダーにとっては、既得権益を維持したい経営上・営業上の事情もあります。ならば既得権益を持たない第3者はどうでしょうか。失敗が自社にとってビジネス上のリスクに直結するという覚悟があれば、自ずと本気度が違ってきます。冷徹な観点で俯瞰すると、モダナイゼーションを得意とする企業に依頼することが、DXのためのモダナイゼーション成功の可能性を高めることは間違いありません。
アクセンチュアがモダナイゼーションを担当させていただく場合においても、現行ベンダーからソースコードやデータ資産をお預かりしてプロジェクトを進行しますが、完了後の保守運用は現行ベンダーが引き続き担当するケースが多数です。つまり、アクセンチュアのようなモダナイズに高い専門性を持つ企業と現行ベンダー、そしてお客様の3者が適切な協力関係を持って取り組むことで、モダナイゼーションの成功率が格段に高まることは確実です。