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事例紹介 JFE STEEL

約5,000万ステップを擁す大規模一貫製鉄所基幹システム刷新とその期間短縮実現を支援

今では当たり前となっている製造現場におけるコンピュータ制御による生産管理。その国内における歴史は1960年代の鉄鋼業から始まったとされる。製鉄所の競争優位性を生み出す源泉である基幹システムはそんな長い歴史を持つ。そのオープンシステムへの完全移行という大事業を、アクセンチュアのモダナイゼーションチームが支援している。

3分(読了目安時間)

課題―求める変化

前例実績がない中、前代未聞の規模に対し現実的で最適な手法を模索

「2025年の崖」という言葉が浸透する以前から、クラウドに代表されるデジタルテクノロジーの進化に合わせ、あらゆる業界において企業はその事業変化に柔軟・迅速に対応できるIT基盤を構築することが急務になっていた。とはいえ、その対象となる製鉄所のシステムは、高炉や鋼材加工、原材料の運搬などあらゆる設備の制御やデータ保存を行うもので、今回のJFEスチール(株)西日本製鉄所(倉敷地区)の約5,000万ステップという事実を見ても、膨大な仕組みだ。

一方、国内外の競合への対抗や、テクノロジー発展の状況からシステム刷新が他業界より進んでいる流通や金融業界を見ても、これほどの規模のオープンシステム移行(モダナイゼーション)は実績がない。そのような状況下で、計画立案当初、この倉敷地区の基幹システム刷新に対し、システムの再構築(リビルド)を含め様々な方法が検討されていたが、費用も作業期間も莫大な規模になるものがほとんどだった。

さらに、現実的な問題として、メインフレームが構築された時期に在籍していた有識者社員が相次いで定年退職し、システム障害が起きた際に円滑に修復できるか不透明にもなっていた。加えて、そのメインフレームのメーカーである富士通のサポート終了期限も迫っている。

そんな状況は、「土砂降り」(JFEスチール西氏)「パーフェクトストーム」(JFEシステムズ笹井氏)という表現の通り、過酷ともいえるものだった。

取り組みー技術と人間の創意工夫

三者の経験と知見の掛け合わせがもたらした2つの発想の転換

国の基幹産業としての使命でもある事業存続を掲げ、最適かつ実行可能性に確信の持てる方法を模索する中で採用されたのが、約5,000万ステップの「ソースコードの自動変換」だ。ここに今回のプロジェクトの肝となる発想の転換の1つめがある。

「基本的には、作り直すのではなく、今あるものをそのまま動かしていく。ただ元となるものには古いものが多いので、基盤となる部分はしっかりと作り、その上でソースコードを自動変換していく」(アクセンチュア西尾)という、システムをマイグレーションするこの方法であれば、長年培ってきた基幹システムに集積されているノウハウをうまく継承しながら、新しい基盤で稼働させられる。とはいえ、論理的に正しい、そして実行は可能だとしたものの、すんなりとこの手法がすぐに現場に浸透したわけではない。「当初ウォーターフォール型の思考から脱却できなかった。今回のメソッドに合わせ、もう一度自分たちの方法論を再編成する必要があった」(笹井氏)という。

JFEスチールとアクセンチュアメンバーのミーティング
JFEスチールとアクセンチュアメンバーのミーティング

JFEスチールとアクセンチュアメンバーによるミーティング。基幹産業を支える次世代たち。

ソースコードの自動変換は、Majalisというアクセンチュアが開発したツールを使って行う。通常でいえば、このツールを使い、約5,000万ステップの内容を作り直す。そして作り直したものをどう保証するかという作業が想定される。しかし、ここでもう一つの発想の転換が行われた。それは、約5,000万ステップを検証するのではなく、Majalisの変換機能そのものの検証で進めるというもの。変換機能が正しく動作するのであれば、そこを通し変換されたものも正しい、という論理に基づく。

「鉄を作るときには、例えば、強度を評価するための破壊検査を、すべての製品で行うわけではない。そんなことをしたら商品が取れなくなるから。だから製造条件が同じところで効率的に必要なサンプルを取り、全体を保証している」(笹井氏)。「製造業は皆そういう手法を取っていると思うが、その上で、そのサンプル数をどうやって減らすかも考える」(西氏)。

こういったJFEスチール、JFEシステムズの持つ「代表サンプルをもって全体を保証する」という知見と、アクセンチュアの持つ「いかに人が手をかける作業を減らし、自動化するか」という知見とが掛け合わされ、他に類を見ない「短工期での大規模システム刷新」が可能となった。

私たちには、製鉄という国の基幹産業として事業をやめるという選択肢はありません。だから今回のようなシステム刷新に対しても、選択肢は「やる」か「先送りする」かの2つだけ。であれば、リーダーの判断としては、「やる」しかない。今回の取り組みが、社会課題化している、私たち同様古いシステム刷新の必要に迫られている会社の方々に対し、参考になればと思っています。

西 圭一郎氏 / JFEスチール株式会社 常務執行役員 製鉄所業務プロセス改革班長

基幹システムのオーナーはあくまでもユーザー。IT部門の責任者として、製鉄所の基幹システムを「預かっている」という視点でモダナイゼーションも誠心誠意取り組むべき。今回は、検証をグループ化し進めることで先行グループのノウハウを活かし更なる効率化を図りました。当初、短期間での刷新は少々ハードルが高い想定でしたが、今では「いける」と確信しています。

笹井 一志氏 / JFEシステムズ株式会社 取締役 常務執行役員 鉄鋼部門総括

成果―創出される価値

倉敷地区基幹システム刷新は24年度末までに完了の見込み

今回の取り組みにより、高炉を保有し24時間連続操業する製鉄所において、富士通製のメインフレーム上で稼働していた約5,000万ステップのCOBOLプログラムを、富士通機サポート終了前にオープン環境/Javaへ完全移行達成の道筋ができた。これは、JFEスチール内でも初の成果であり、プロジェクト開始から4年半という短期間での完了という比類のない事例となる(参考:JFEスチール株式会社プレスリリース:大規模一貫製鉄所初の基幹システムオープン環境への移行)。

システム刷新には通常、膨大な時間や投資が必要で、経営層にとって取り組みにくい経営課題でもある。そんな中でのこの事例は、未だ国内で数多く存在するメインフレームに対し、現実的な脱却手法の前例となる。

この刷新により、JFEスチールでは、社内外の組織との柔軟なデータ連携や最新技術の機能的な組み込みについて検討できる環境が整うことになる。企業としての経済価値を生み出す源泉である基幹システムに蓄積されたノウハウを保持し、それらをさらに幅広く活用するデータドリブンな業務変革推進も進める。

「これからが本格的なところ。晴れていて見通しはよいが、高い山が見えている」(西尾)というこの取り組み。アクセンチュアは、今後もJFEスチールの倉敷地区における基幹システムの刷新、またそれに続く東日本製鉄所千葉地区の基幹システム刷新も継続して支援をしていく。

JFEスチール、JFEシステムズ、アクセンチュアのリーダーチーム
JFEスチール、JFEシステムズ、アクセンチュアのリーダーチーム

(左から)アクセンチュア 西尾、JFEスチール 西氏、JFEシステムズ 笹井氏

チーム紹介

西尾 友善

テクノロジー コンサルティング本部 レガシーモダナイゼーション・オプティマイゼーション日本統括 マネジング・ディレクター

高村 弘和

テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービス グループ マネジング・ディレクター

竹井 理文

常務執行役員 素材・エネルギー本部 統括本部長

渡辺 俊介

素材・エネルギー本部 マネジング・ディレクター