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事例紹介

日産化学:製造領域における仮想統合データベースの導入

日産化学株式会社は価値創造プロセスの高度化およびその結果としての競争力強化を掲げ、新たな組織体系の検討、ガバナンスやプラットフォームの整備、さらには工場、事業、R&Dを含めた全社的なDXに取組まれています。アクセンチュアは、2019年の工場におけるDXコンセプトの設計・構想を皮切りに、システム構築・解析支援等、全社DXをご支援しました。

5分(読了目安時間)

課題―求める変化

製造業全体としての背景:

従来から、多くの製造業(特に総合化学業界、石油業界)において、装置や機器の数が多いため保全にかけるコストが高く、かつ労働者が介在する時間が長時間になるといった課題がありました。また、工場で導入されている各システム間の連携がとられておらず、業務ごとにシステムがバラバラに導入されており、データの統合・一元管理がされていないため、効率性の阻害要因となり、業務全体の高度化に向けた洞察を得ることが難しいといった課題もありました。

日産化学における課題:

日本の多くの製造業がこうした課題を抱える中、日産化学株式会社(以下 日産化学)はいち早く改革に着手をしました。2019年に、ロードマップを作成(工場メンバーとDX構想を実施した段階のシステムとデータに関する課題を議論)する中で、まずは現状の見直し、取り組むべき課題を特定しました。当時は、属人的に運用された独立システムが存在し、故障記録、引き継ぎ簿、設備図書などは紙で、生産計画、ヒヤリハットに関する情報はエクセルでデータが蓄積されていたため、以下のような課題がありました。

  • 全工場で業務を標準化し、データ活用を前提とした定量的な業務改革を行うことで、設備費の最適化・生産性を向上したいという要望がありました。しかしながら、システムがサイロ化され、属人的に運用されていたため、解析に使えるデータの質や精度がまちまちであり、結果として「勘・コツ・経験」を重視した定性的な業務が実施されていました。
  • 定量的な業務を遂行すること自体には意欲的であったが、「重要データ・設備図書が電子化されていない」、「複数のシステムやエクセル/文書管理データの紐づけがされていない」、「異常データの除去・時刻合わせ等クレンジングが必要なデータが多い」、「目的に沿った情報を収集するのに時間がかかる」など、データ精製に膨大な時間を取られており、結果的に本来時間を使うべき解析業務に時間を取れない、時間をかける余裕がない状況であった。(データの準備段階で全体業務の約9割の時間を要し、解析には1割程度の時間しか割けていなかった)

上記に記載した、システムのサイロ化、属人的業務遂行、多くの未精製データや情報といった課題を解決することは、日産化学がグローバルで高い競争力を持って活躍し続けるためには必須、かつ急務のことでした。

取り組み―技術と人間の創意工夫

アクセンチュアは、日産化学の生産技術部門・設備管理部門・製造部門・デジタル部門とともに、プラント情報管理システム(AVEVA PI)・設備管理システム(SAP PM/PS)・設備図書管理システム(Hexagon SDx)を連携した仮想統合プラットフォームを構築し、2023年8月に稼働しました。

仮想統合データベースの心臓部を統合

本プロジェクトでは、従来個別に稼働していたシステムの各種製造データを一元管理し、即座にデータを収集後、解析からタイムリーに示唆を得ることで各種DXを推進できる基盤の整備をEnd to Endでご支援しました。

個々のシステムや紙およびエクセルに分散されていたデータを関連づけた「仮想統合データベース」を構築することで、横断的なデータ解析が実施でき、即座に経営や現場で必要な定量的洞察を得られるような環境を整備することから着手をしました。具体的には、製造領域で心臓部ともなる設備図書管理システム、設備管理システム、プラント情報管理システムを設備階層で統合することによりデータ基盤プラットフォームの基礎である、「図面・設備図書」・「保全データ」・「運転データ」といった重要なマスタデータの共通的な格納基盤としました。アクセンチュアと日産化学は3年間かけてこの仮想統合データベースを実際に構築することに成功しました。合わせてセキュリティポリシーやクラウド活用方針などの基本方針も策定しました。

データ基盤プラットフォームの心臓部
データ基盤プラットフォームの心臓部

新たな設備管理システム(SAP PM・PS)の導入

さらに2023年8月、SAP社の設備管理システム(PM・PS)を新たに導入することを契機に、保全業務の標準化や保全に関する資源管理および設備保全業務・製造業務の高度化を行うことを目指し、設備管理システム・設備図書管理システム・プラント情報管理システムを連携しました。

設備管理システムにSAP社の製品を活用する最大のメリットは、保全業務(機器故障・計画保全から工事結果登録まで)を通じて日々蓄積される保全工事などに費やした実績金額や保全実施内容などを、即座にSAPのシステムで確認できる点でした。データ蓄積に関しては、現場の方々が日々の業務で紙やエクセルに記入している項目を、システムに入力するのみとなりました。

設備管理システムの概要
設備管理システムの概要

設備管理システム(PM・PS)とともに、Hexagon社の設備図書管理システム(EDMS)で文書の検索性を高め、さらにプラント情報管理システム(AVEVA PI)とつなぐことで、設備信頼性および生産性の向上に向けたデータ活用につなげています。

アクセンチュアを選んだ理由は、豊富な実績に裏付けられた知見、圧倒的な技術力。しかし一番の理由は、初期の検討段階で「私たちと価値観を共有し、この挑戦をサポートしてもらえる!」と実感できたことです。

日産化学株式会社 常務執行役員 畑 利幸様

成果―創出された価値

工場全体での保全業務・予算の一元管理と効率化

仮想統合プラットフォームの導入により、全工場での設備保全に関する業務が標準化されました。また、設備図書や運転データおよび保全データの収集時間が従来よりも圧倒的に短縮されたため、工場横断での統合的なデータ活用を実現しています。その結果、全工場で設備に関する投資を最適化していくための考察を、データから得ることが可能になりました。

全工場で業務の標準化を実施したことで業務が効率化され、従来業務にかかっていた工数の削減及び保全費の低減が可能になりました。更に、保全抜けによる突発事故・停止を防ぐことで重大保安事故のリスク低減にも取り組むなど、事故の発生を下げながらより効率的に保全をしていくための礎を築きました。

今後は、データ解析に時間を割くことで突発事故・停止リスクを低減しながら、さらなる全体工数の削減及び運用コスト、損失額の低減を目指しています。加えて、現場の業務データを統合的かつリアルタイムに取得することで、現場での業務最適化・効率化にとどまらず、経営層の意思決定の迅速化にも繋げていきます。

アクセンチュアは、素材・エネルギー本部やインダストリーX本部、テクノロジー コンサルティング本部を中心に業界知見・製造最適化の知見・ベンダー各製品に精通した専門家を多数有しています。こうしたメンバーが一丸となって本プロジェクトの成功に取り組み、従来個別に提供されていた各社(SAP, Hexagon, AVEVA)のソリューションを束ね、日産化学の将来の競争力の礎となる最適な基盤作りに貢献しました。

本取組みを通じて、デジタル改革に臨むマインド、組織体制、教育、進め方を学びました。当社における変革の礎を構築することが出来、技術者がどんどん成長していく姿を見るのは頼もしく楽しかった。 当社デジタル改革は、我々の足で自立し進み始めました。一方、価値創造・共創プロセスの強化への取組みはこれからも続きます。今後も良きパートナーとして支援をお願いします。

日産化学株式会社 常務執行役員 畑 利幸様

リーダー紹介

守屋 靖裕

インダストリーX本部 マネジング・ディレクター