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Accenture Life Trends 2024から見えるライフ起点への一歩
5分(読了目安時間)
2024/04/30
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2024/04/30
ビジネスに影響を及ぼす人々や社会の変化をトレンドにまとめてご紹介する年次レポート「Accenture Life Trends 2024」は、Fjord Trendsとして発表していた頃から数えて今年で17年目を迎えます。トレンドでは、人間、テクノロジー、ビジネスが交差するところで起こるさまざまなことに着目しています。まさに、製品、サービス、体験、コミュニケーション、コマース、カスタマーサービスなど、アクセンチュア ソングがご支援することが属する領域です。Life Trendsはまた、私たちが掲げる、多様な人々と共に変化し価値を提供することで成長を実現する「ライフ起点」の戦略とも呼応します。
レポートの作成にあたっては、アクセンチュアの世界中の知見を集約しつつ各国を対象にした調査も行い、定性・定量のあらゆるインサイトを組み合わせています。
例年、各トレンドを一言で表すメタトレンドを用意しますが、直近の5年間を振り返ると、2019年(価値の探求)から2020年(原理原則の再考)は「豊かさゆえの飽和から本質を探求する時代」、2021年(新しい領域の地図づくり)から2022年(新たな日々を織りなすもの)は「パンデミックの混乱と喪失から内省を深める時代」、そして2023年(コントロール&パワー)と今年2024年(解体と再構築の始まり)は「パーマクライシスがもたらすストレスに適応する時代」へと変遷してきたと言えます。2024年以降は不確実性に適応するだけでなく、主体性を取り戻し、テクノロジーを活用しながらこれまでの当たり前を捨てて新たな当たり前を形作っていく人々の姿が見えてきました。
新しい世界で自分たちが何者であるかを見極めようと人々があらゆるものについて再考する中、企業やブランドも新たな一歩を踏み出さなければいけません。でも、どこから始めたらよいのでしょうか?未来を考えるための5つのトレンドをご紹介します。
一つ目は、顧客と企業のエンゲージメントについてのトレンドです。「顧客志向」は長らく企業の最優先事項であり、体験価値を向上させるために多くの投資が行われた結果、顧客は「取引」以上の関係をブランドに期待するようになっています。しかし、厳しい経済状況の中でこのような投資は縮小されざるを得ず、そのことは商品や選択肢の格下げなど各チャネルを通して「顧客への愛」の減少として伝わっています。そして、これまでの関係が反故にされていると気づいた顧客は、企業に厳しい目を向けるようになっています。
このような状況を打開するために企業が優先すべきなのは、顧客体験に直接影響する価格と体験価値のバランスを再調整すること。具体的には、自社の顧客体験の中で最もロイヤリティを高めている重要な箇所と、相対的にそうではない箇所を見極め、より重要な箇所に投資できるようにするのです。顧客が公平性を感じる重要な情報である「価格」については、一層慎重に戦略を立てることが重要です。
二つ目は、生成AIがもたらすインターフェースの転換についてのトレンドです。生成AIとそれを支える大規模言語モデル(LLM)の登場はさまざまな領域にインパクトをもたらしていますが、企業と顧客の関係における影響は情報を探す方法を「検索モード」から「会話モード」へと移行させる、という点です。それにより、生成AIは無機質なデジタル体験を「心が通うコミュニケーション」に進化させるでしょう。
「心が通うコミュニケーション」とはどういうことか、その体験例をご紹介します。ユーザーがホテルを予約しようとする時、従来であれば場所や日付、人数を指定して検索しますが、会話モードでは「フィレンツェの市街地からアクセスの良いホテルを探して」など、より人間の思考プロセスに沿った体験が実現できます。将来的には、ホテルとの価格交渉すらAIアシスタントが代行してくれるようになるかもしれません。
このように、パーソナライゼーションは単なるロジックによる再現から、顧客との会話の文脈に応じたより動的なものへ進化していくことが予想されます。また、人々がチャネルを使い分けることなく、一つのAIを通して複数のタスクをシームレスに完了できる未来も遠くないかもしれません。これはつまり、企業と顧客の接点もチャネル単位からブランド単位へと変わることを意味します。ブランドらしさやアイデンティティを体現するAIの重要性と可能性はさらに高まっていくでしょう。
生成AIによるインターフェースの革命にはさまざまな可能性がありますが、どんなことが実現できるかは企業によって異なるため、まずは自社が保有するデータを見直すこと。そして、最大限にシームレスな体験が提供できるよう、部署横断で体験設計ができる組織体制を整えておくことが重要です。
三つ目は、生成AIがクリエイティブに与える影響に着目したトレンドです。効率重視の考え方や予算の縮小により、クリエイターは新しいものを追求するよりも、過去に成功したやり方を選択することが増えています。過去の成功に頼ることが必ずしも悪いわけではありませんが、その裏側に効率重視の考え方が透けて見える場合、顧客の失望や退屈につながってしまいます。
さらに、飛躍的に進化するテクノロジーの力がこの流れに拍車をかけており、生成AIによって平均的なコンテンツが蔓延しやすくなっています。このようなコモディティ化もまた、興奮や感情的なつながりを促進させる目新しさとは対極にあるものです。
このような悪循環に陥らないためには、テクノロジーの可能性に惑わされないことが重要です。あくまでもテクノロジーをどう使うか、という人間の創造性こそが差別化の鍵であり続けます。生成AIが持つ力を最大限に活かして差別化を実現するには、熟練のクリエイターが関与し、効率重視の指標だけではなく「ブランドらしさ」を測るKPIも設計するなど、アウトプットの質を高めることにこだわることが大切です。
四つ目は、生成AIを含むあらゆるテクノロジーと人間のウェルビーイングの関係について考えるトレンドです。テクノロジーの急速な進化や生成AIの登場により、人々は混乱や不安、無力感を抱いています。生活リズムをモニタリングして行動を促すアプリやサービスの通知によって、いつ何をするかをテクノロジーにコントロールされているかのように感じたことがある方も少なくないでしょう。
現在のような環境の中でウェルビーイングを保つのは容易ではないため、企業がテクノロジーを導入・活用する際には法律によって定められたルールを遵守することに留まらず、人々のウェルビーイングを向上するために積極的に行動していく必要があります。「コンプライアンスからケアへ」という姿勢で想像力を働かせ、先導してビジョンを描くことが期待されています。
五つ目は、これまで見てきたような社会やテクノロジーの変化を背景に、あらゆる世代の人生観の解体と再構築が始まり、それが顧客像の変化も促していることをまとめたトレンドです。
パンデミックや格差の拡大、それに対応しきれない社会システムへの不安感に、人々は自ら対処しようとしています。同時に、急速なテクノロジーの発展や多様化する思想など、人々に新たな選択肢をもたらすものもあります。私たちの調査からは、この新たな自由と不自由がかつては「人生の成功」を象徴したライフイベントの価値の問い直しにつながり、また、パンデミックの衝撃が長期的な計画への関心を下げていることが分かりました。
人々が自身の人生を問い直す中で、ニーズや欲求もますます予測不能になっていくでしょう。ライフイベントのような客観的な事実よりも内面の主観的な豊かさを優先するなど、多様で流動的な存在として顧客を捉えることが重要です。これはつまり、デモグラフィック情報に基づいた従来の顧客セグメントやターゲット像では対応できなくなることを意味します。このような変化が自社のビジネスにどのような影響をもたらすかを考えつつ、変わり続ける顧客に対応できる組織体制を整えることが重要です。
このように価値観の解体と再構築が進む中、企業が"一人十色"の顧客が持つ多様な価値観に応える「ライフ起点」戦略の重要性が増しています。さらに、これまで効率化が重視される傾向にあったテクノロジーの活用においては、生成AIの登場により同質化が加速するリスクが生まれています。”効率化”と”同質化”の矛盾を乗り越えながら、人間がクリエイティビティを発揮して顧客の多様な価値観に応える方法を見つけることが、日本企業にとってのチャレンジになっていくでしょう。
そこで私たちからの提言は、企業視点で顧客がどれだけの収益につながるかを考える「LTV(Life Time Value)」に対応させる「cLTV(Customer Life Time Value:顧客の体感価値)」という指標を設けることになります。cLTVとは、体験を通じて顧客がどれだけの価値を体感したかを測る顧客視点の指標であり、 "顧客にとっての価値"と"企業にとっての価値"の相関関係を見出し、顧客の体感価値を長期的に蓄積することで企業が成長を遂げる、というのが目指すべき姿だと考えます。
目指すべきcLTVは企業ごとに異なってくるでしょう。アクセンチュアはブランドアイデンティティの再定義から顧客体験の刷新、そしてLTVとcLTVの実現まで伴走しながらご支援します。