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視野の外にあるコミュニケーションのギャップを解消し、「ついていけない」をなくす
2022/12/23
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2022/12/23
ビジネス コンサルティング本部所属のMikaです。アクセンチュアに入社してすぐ、TransCommunicatorの開発プロジェクトを紹介されました。入社当初、「AIのこういった技術を使いたい」とか、「こういう分野に興味がある」といった具体的なイメージではなく、漠然と「AI技術を使い、困っていることや起きている問題を解決するような仕事がしたい」と思っていました。また、ユーザーの声を聞き、それを活かしながら開発できること、またそこがモチベーションになると魅力を感じ、すぐに開発プロジェクトに参加させていただきました。そこから現在まで半年ほど、アプリケーションの開発や運用に携わっています。
TransCommunicatorは、音声の文字起こし・翻訳アプリです。発話内容が、リアルタイムで字幕として表示され、一般的な語彙に加えて、一般的な音声入力の際に認識されにくい、業界ならではの専門用語も、高い精度で認識できます。アプリ画面表示の透過度を自由に設定できるので、画面に表示したアプリ以外の会議資料など、視覚的に遮らず表示できます。
他にも、単語辞書、翻訳辞書に語彙を登録し、音声認識や翻訳の精度を高められる機能、表示したメッセージの編集機能、会話内容を保存できる機能、5,000文字までの長文テキスト翻訳機能などがあります。また、入力した文章を読み上げ、会議中に発言できる機能や、事前に登録した定型文を、音声として発話するアクションボタン機能もあり、障がいのある方たちの会議中の発話もサポートしています。
TransCommunicatorは当初、障がいのある方のサポートを主目的として開発がスタートしました。聴覚障がいのある方にとって、視覚から得られる情報は大切です。ミーティングや大きなイベントでは、たくさんの人とたくさんの情報がやり取りされます。こういった場合、全ての情報を、発話者の口の動き、画面や大きなスクリーンに投影された資料を目で追い、その視覚のみに頼ってきちんと把握することはとても難しく、会話や話題についていけなくなったり、その結果積極的に発言できなくなったりといったことが起こりがちです。
こうした問題を解決するため、TransCommunicatorは開発されました。プロトタイプの段階から障がいのある方々に使用していただき、具体的なフィードバックを参考にしながら、徐々に機能や精度を改善してきました。その後、言葉の壁を越えたコミュニケーションの活性化にも役立つよう多言語へ対応し、同時自動翻訳機能も追加され、現在では障がいのある方だけでなく、さまざまな場面でいろいろな方に使われています。
また、TransCommunicatorは、社員の業務利用だけでなく、社内イベントでも多く活用されています。例えば、5月の国連が定める「対話と発展のための世界文化多様性デー」に合わせ開催されたJapan Cross Cultural Dayでは、パネルディスカッションにおいて、日本語・英語を同時に表示するための字幕化・翻訳ツールとして使用されましたし、 12月3日の「国際障がい者の日(International Day of Persons with Disabilities)」を記念して開催された、PwD Dayイベントでは、このイベントを企画・実行したディスアビリティ・インクルージョン・コミッティの活動報告や、それに続いたパネルディスカッションの字幕表示にもTransCommunicatorが使用されました。
開発や自身の体験を通して気づいた「視野の外の困難」
私自身、こういったイベントで利用されているところを実際に見たり、ユーザーからのフィードバックや要望をいただいきながら、開発を進めたりしているうちに、「障がいのある方の抱えるストレス」について、少しずつですが、本当の意味で理解できるようになってきました。例えば、「会議中にメモを取る」といった、日常的に行われている「ながら作業」が、障がいのある社員にとってなかなか難しいことも、この開発プロジェクトに参加して、初めて知ることができました。そして同時に、私がまだ知らない、思いもよらない困難が、まだまだたくさんあるということにも気づかされました。
このブログ記事を書くに当たり、TransCommunicatorのユーザーで、障がいのある社員の方のお話を伺ってみました。開発へのフィードバックとは違い、ざっくばらんなところを伺ったのですが、オンラインでの会話の開始後しばらく経ったところで、「もし可能なら、ヘッドセットを使っていただけますか」と言われました。そこで初めて、ヘッドセットに付属のマイクを使用することが、より読みやすい字幕化につながることを知り、オンラインでの会話に参加する全員がヘッドセットを使用する必要と、その効果に気づくことができました。ひとつひとつのできごとはとても小さなことかもしれませんが、自分がその必要性や不便を感じることが少ないため、気づかなかったり、見過ごしてしまったりしているような、さまざまな困難が、他にもたくさんあるはずです。そして、それに気づくことから広がる可能性は大きいのではないかと思います。
現在、TransCommunicator開発チームでは、こうした気づきやユーザーからのフィードバックをもとに、「ツールの導入だけでは埋まらないコミュニケーションギャップ」の解消にも目を向け、障がいのある・なしに関わらずTransCommunicatorをより便利にご利用いただけるよう、イベントを企画しています。
TransCommunicatorは、障がいのある社員や、外国語話者の社員に必要なサポートを提供するだけでなく、私を含め、その周りの社員がそれぞれ、コミュニケーションの中でどんなアクションを求められているか、気づくきっかけになるツールでもあると思っています。TransCommunicatorの開発と普及を通して、さまざまな特性を持った社員同士のコミュニケーションで生じ得るギャップを、できる限り無くしていけたらと思っています。もし、あなたの周りにもサポートが必要な方がいたら、ぜひTransCommunicatorを試してみて、と伝えていただきたいと思います。
技術の発展は常に進みますが、特に、AI技術の進歩はとても早く、音声認識や翻訳の精度は日々向上しています。TransCommunicatorは、議事録、翻訳アプリとしても非常に優秀なので、サポートが必要な障がいのある・なしに関わらず、多くの社員に利用していただけたらと思っています。
PwDデーのイベントに参加した時、障がいのある社員の方が「障がいがある人にはこういうサポートをしよう、というよりは、目の前の人が何を求めているかを確認してほしい」と言っているのを聞いた時、これは障がいの有無に関わらず、あらゆる人とのコミュニケーションに対して言えることだなと思いました。私にとってTransCommunicatorとその開発という体験が、自分の無意識やコミュニケーション中に生じる様々なギャップに気づくきっかけになったように、この記事が、読んでくださっている方の小さな気づきのきっかけになれば嬉しいです。
最後に、このTransCommunicatorの開発責任者であり、アプリ開発の最初の段階からこのプロジェクトに携わっている堺さんから、TransCommuicatorというツールに込めた想い、その元になっている考えを伺いました。この想いを中心に、これからもTransCommunicatorは進化し続けます。
インクルージョン&ダイバーシティの”ダイバーシティ“には、性別・文化・障がいの有無・LGBTQなど、いろんな軸がありますが、どの軸においても共通して言えることは、何かと何かに"分ける"ことで"分かった"気になったり、何らかのラベルづけをして、他の沢山の情報を捨象してしまったりするのは危険、ということだと思います。つまるところは、一人ひとりと本音で向き合うこと、それが大事だと考えています。このTransCommunicatorが、障がいの有無という壁を越えて、一人ひとりと「本音で向き合う」一助となると嬉しいです。
TransCommunicatorは障がいのある方向けのツールであるのと同時に、障がいのある方とコミュニケーションをとる人が自分の話を相手にきちんと伝えるためのツールでもあります。ですので、障がいの有無に関わらず利用が広がってほしいですし、アクセンチュアだけでなく同じ課題を抱える他の企業や組織にも利用を広げていければ、と考えています。
アクセンチュアのAI Hubというプラットフォームを使うと、最適なAIエンジンを組み合わせたり組み替えたりすることができます。今後も、AIを中心としたテクノロジーと人間の創意工夫によって、さまざまな経営課題・社会課題を解決していきたいです。
ビジネス コンサルティング本部 AIグループ マネジング・ディレクター
堺 勝信
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