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化学業界における生成AIの労働力への影響

アクセンチュアのレポート「Work, Workforce, Workers」において、大規模言語モデル(LLM)利用により、日本の労働市場全体で平均約4割、日本の化学業界では約3割の労働時間が自動化、または大幅に強化される可能性が示されました。新素材の開発や製造プロセスの効率化におけるAIの役割と、日本の化学業界における労働時間の自動化の可能性を解説します。

3分(読了目安時間)

2024/09/06

生成AIの登場から徐々に浮き彫りにされてきているもの

生成型人工知能(生成AI)の登場により、多くの職業が根本的な変化を迎えることが予想され、すでにその変化が始まっています。特に化学業界では、新素材の開発や製造プロセスの効率化等、研究開発(R&D)において直接的な競争力となる活用事例が見られます。また、工場のオペレーション、環境影響の評価やカスタマーサポート等様々な分野でも生成AIが活用され始めています。これらの事例はほんの一例にすぎませんが、アクセンチュアのWork, Workforce, Workersの調査結果から、日本の労働市場全体では平均約4割、日本の化学業界の約3割の労働時間が大規模言語モデル(LLM)により自動化または大幅に強化される可能性があることがわかりました。

一般的に、定型的で反復的なタスクが多い業務は、大規模言語モデルによる自動化の影響を受ける可能性が大きいと考えられます。一方各業界の専門職に多い、抽象的な推論や問題解決スキルを必要とするタスクが多い職業では、LLMによる能力強化の可能性が大きいと考えられます[i]。さらにアクセンチュアリサーチの試算によると、事務職(オペレーション)は大幅に自動化されると見込まれる一方で、日本の化学業界ではその就業人数の規模は小さいと考えられます。就業者数が多い化学業界の専門職の職種(各種運転工・技術者等)では、平均すると約23%の労働時間がLLMの自動化または強化による影響を受けると推計されます。

化学業界における大規模言語モデルによる潜在的な労働時間への影響
化学業界における大規模言語モデルによる潜在的な労働時間への影響

出所:Accenture Research (総務省統計、O*NETのデータに基づく)

ゆくゆくは多くの新しい役割を創出していく可能性

また、この影響を生産性向上の視点で捉えると、日本の全業界では約7から32%、化学業界では約9%から11%の労働時間の節約により、生産性が向上する見込みです。他業界に比べると影響は限定的に見えますが、約10%の生産性向上は無視できない規模です。なお、労働時間の節約は、必ずしも既存の仕事の総数を減らすわけではないと考えられます。新技術の導入により労働市場の性質が変化したり、既存の仕事の一部の置換や強化が行われたりすることで、最終的には多くの新しい役割を創出する可能性があります[ii]。

業界のビジネスリーダーは、最新のトレンドを理解し、生成AI、なかでもLLMが仕事に直接与える影響を深く理解することが不可欠です。そして、大きく影響を受ける役割を特定し、労働者が新たな役割や働き方に移行する過程を支援する責任があります。このような支援を通じて、イノベーションの加速、コスト削減、環境への対応など、企業が競争力を維持し続けるための要素を、生成AIが強化します。ビジネスリーダーは業界内外のトレンドを常に把握し、生成AIの可能性について幅広くかつ継続的に考慮する必要があります。

本稿執筆にご協力いただいたアクセンチュアリサーチに感謝を申し上げます。

[i] [ii]Jobs of Tomorrow:Large Language Models and Jobs, White Paper (World Economic Forum in collaboration with Accenture Research)

筆者

竹村 亮

素材・エネルギー本部 マネジング・ディレクター