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ブログ

DX対応のIT運用と「ITIL4」

所要時間:約5分

2022/03/31

テクノロジーコンサルティング本部インテリジェント・クラウド・イネーブラー・グループに所属しているプリンシパル・ディレクターの中 寛之です。サービスマネジメントを中心としたコンサルティングに従事しています。

サービスマネジメントの世界では長らくITIL®というフレームワークが用いられています。かつてはIT Infrastructure Libraryの略称とされていましたが、2019年にリリースされたバージョンから略称が正式名称となり、「ITIL4」と呼ばれています。

※ITIL®はAXELOS Limitedの登録商標

このITIL4はクラウドやそれを下支えにしたDXととても親和性が高く、本稿ではそれを解説したいと思います。

DX時代のIT

ここ数年、ITの世界はDX(Digital Transformation)という変化に晒されています。DXとは、社会・生活者により良い世界を提供することを通じて、企業価値を向上させるために行う企業活動全体の変革を意味します。たとえば、新規事業創出という観点では、既存事業の価値を向上しつつ、自社製品ユーザーのニーズに応えられるデジタル新サービスをどのように素早く立ち上げていくかを問います。バックオフィス業務の観点なら、日々の作業量が多い定型業務をどう効率化していくかがテーマとなります。

今までのITとは異なり、DX時代のITは、ビジネスとテクノロジーの一体化をスタート地点として新たな企業のコアを創造することが求められています。

DX時代のIT
DX時代のIT

この変化に対して、アプリ開発だけでなく運用・サービスマネジメントも影響を受けます。

たとえば、従来のIT運用では監視起因による問い合わせとマニュアル作業で対応できていたところを、DX時代のIT運用では自動化とセルフサービスを組み合わせた省力化を実現しなければどうなるでしょう。ビジネス側・アプリ側の変化の速さについていけず、運用の作業負荷は急激に高まって運用管理者は疲弊します。

変化のサイクルが短くなることで環境変更に伴う種々の作業量も比例して増えるだけでなく、インフラが複雑化することで作業手順も複雑・煩雑になり、オペレーションミスを誘発しやすくなってします。

すでに多くの組織でこの問題が顕在化しており、プラットフォームとしてはクラウドの活用が進められてきましたが、オペレーションモデルとしてDXの変化に対応するIT運用(DX-IT運用)への進化も現場からも求められています。

DX-IT運用
DX-IT運用

アクセンチュアは、システムだけではなくサービスそのものを安定化させる技術が必要と考えており、それを「SRE(Service Reliability Engineering)」と呼んでいます。

一般的に知られているSRE(Site Reliability Engineering)はInfrastructure as Code、AIOps、Run Book Automation、SLA/KPI管理が根幹となっていますが、アクセンチュアのSREはDevOpsおよびサービスマネジメントも含めており、ビジネスと表裏一体で存在するITに必要とされる活動をすべて内包しています。

アクセンチュアが提唱するSRE
アクセンチュアが提唱するSRE

ITオペレーティングモデル for ITIL4

ITIL4の要素である、サービスのエンゲージメント、計画、設計および移行、取得/構築、提供およびサポート、改善をITライフサイクルのモデル図に照らして整理すると、アクセンチュアのSREのスコープをすべて含むことができます。

以下の図は、サービスのライフサイクルを「サービス戦略」、「サービス開発」、「サービス運用」の流れで表し、顧客やサービスパートナーとの接点として「顧客・エコシステム」、IT部門の組織運営として「管理」をその流れを包み込むように配して、そこにITIL4の34プラクティスをマッピングしたものです。ここではITオペレーティングモデル for ITIL4と呼ぶことにします。

ITオペレーティングモデル for ITIL4は、領域を3層構造(L1/L2/L3)にしています。各領域における3層構造とプラクティスの配置を以下に示します。

ITオペレーティングモデル for ITIL4
ITオペレーティングモデル for ITIL4

L1:【顧客・エコシステム】

 L2:業務管理

  L3:事業分析、関係管理

L2:サービスレベル管理

 L3:測定および報告、サービスレベル管理

L2:サプライヤ管理

 L3:サプライヤ管理

 

L1:【サービス戦略】

L2:戦略

 L3:戦略管理、ポートフォリオ管理

L2:アーキテクチャ

 L3:アーキテクチャ管理 

 

L1:【サービス開発】

 L2:開発

  L3:サービスデザイン、サービスの妥当性確認およびテスト、ソフトウェア開発と管理

 L2:プロジェクト管理

  L3:プロジェクト管理

 L2:サービス移行

  L3:変更実現、リリース管理、展開管理

 

L1:【サービス運用】

 L2:サービス移行(※前述済み)

 L2:サービス運用

  L3:モニタリングおよびイベント管理、サービスデスク、インシデント管理、サービス要求管理

 L2:サービス管理

  L3:サービスカタログ管理、問題管理、キャパシティとパフォーマンス管理、可用性管理、サービス継続性管理、サービス構成管理、IT資産管理

 L2:インフラ・セキュリティ管理

  L3:情報セキュリティ管理、インフラストラクチャおよびプラットフォーム管理

 

L1:【管理】

 L2:組織管理

  L3:組織変更の管理、要員およびタレント管理、リスク管理

 L2:財務管理

  L3:サービス財務管理

 L2:ナレッジ管理

  L3:ナレッジ管理

 L2:改善

  L3:継続的改善

ITILv2(2001年)の頃はサービスの安定稼働に必要な管理プロセスを主たるスコープでしたが、それと比べて、ITIL4のプラクティスがとても幅広い範囲に跨っていることが先の図から分かります。

DX対応で影響を受けるITIL4プラクティス

これら34プラクティスのすべてがDX-IT運用への進化で等しく影響を受けるわけではありません。DX化はアプリ開発のアジャイル化を促すため、アジャイル開発モデルの採用に関係深い開発・運用業務が強い影響を受けます。

たとえば、業務部門・外部パートナーとのエスカレーション頻度が増えるインシデント管理と問題管理では、エスカレーションルール強化に加えてSite Reliability Engineeringで重要とされるエラーバジェットとバックログ管理の実現方法を組織共通で適用することが求められます。

アラートを拾うモニタリングおよびイベント管理では、クラウドベンダーが提供するサービスを利用したリアルタイムな状況把握だけではなく、エンドツーエンドでユーザートランザクションを捉える合成監視も実装するべきです。

サービス構成管理とIT資産管理で自動収集されるベースラインをもとに、キャパシティとパフォーマンス管理や可用性管理で動的に可視化されることで、サービス稼働情報は網羅性と的確性が保たれます。

サービスカタログ管理とサービス要求管理では、利用可能なサービスの情報開示と申請や問い合わせフォームの集約・自動化によって、ユーザー対応業務の負荷を軽減するだけでなくユーザー自身のサービスへの理解深化を促せます。

他にも、アジャイル開発に各プラクティスを対応させ、情報セキュリティ管理の自動化範囲を拡大することで、頻繁なリリースと多数の製品の組み合わせによるアーキテクチャによる弊害を最小限に抑えます。

顧客・エコシステム(エンゲージメント)
顧客・エコシステム(エンゲージメント)

ITライフサイクルの標準化と自動化

これらをプロセス層に対応する自動化層として関係図に表すと、ITライフサイクルにおける標準化と自動化の対象範囲を俯瞰して捉えることができます。以下の図は、ITオペレーティングモデル for ITIL4で示したL2階層の単位をプロセス層にマッピングし、それらに対応する自動化要素を表しました。(L3階層の単位で自動化要素を列挙した図もあり、それについてはアクセンチュアの講演やコンサルティングワークの中で確認ください。)

考え方として重要なのは、ITに係る業務の作業手順を標準化した後に自動化の仕組みを適用する改善順序です。近視眼的に目の前の業務を自動化するところから始めてしまうと、個々の最適化が寄せ集まるサイロ化された業務モデルに陥ってしまいます。

ITライフサイクルの標準化と自動化
ITライフサイクルの標準化と自動化

まとめ

世の中が求めるDX化に合わせて、ITは変化しています。プラットフォーム技術はクラウドの活用でサービス化が大いに進み、アプリケーション開発もDevOpsの浸透によって変化に即応する開発・運用基盤の採用が拡大しています。IT運用も変わらなければなりません。変化を拒めば、運用の現場が煩雑で複雑な業務に疲弊し、業務側が求める即応性のあるインフラを実現できないからです。運用の現場にはDX-IT運用が求められています。その実現にITIL4の果たす役割は大きく、ITオペレーションモデルの形で俯瞰して捉えると、DX化で意識すべき業務(ITIL4のプラクティス)がどこなのか分かります。

あなたの組織の運用部門がDX対応で迷っているようなら、ITIL4に沿って業務を分析してみることをお勧めします。プロフェッショナルのサポートが必要だと感じたら、是非アクセンチュアへご相談ください。

筆者

中 寛之

テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェント クラウド イネーブラー グループ プリンシパル・ディレクター