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サーキュラー・エコノミー 脱炭素時代の経営における新成長戦略とは?
従来の大量生産・大量消費型のリニアな経済システムが限界を迎えるなか、サーキュラー・エコノミーへの転換が期待を集めています。従来の経済システムの無駄をなくすことによる経済効果は4兆5000億ドルにものぼると言われており、新たなビジネスモデルへの転換が求められます。企業がサーキュラー・エコノミーを機会として捉え成長するためのヒントを探ります。
所要時間:約5分
2023/11/01
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従来の大量生産・大量消費型のリニアな経済システムが限界を迎えるなか、サーキュラー・エコノミーへの転換が期待を集めています。従来の経済システムの無駄をなくすことによる経済効果は4兆5000億ドルにものぼると言われており、新たなビジネスモデルへの転換が求められます。企業がサーキュラー・エコノミーを機会として捉え成長するためのヒントを探ります。
所要時間:約5分
2023/11/01
サーキュラー・エコノミーとは、従来の供給視点の長くて遅いサイクルから、利用視点に立ってバリューチェーンを短く速く回しモノやアセットの潜在価値を最大限マネタイズし、利益創造をし続ける新成長モデルです。
過去、サーキュラー・エコノミーに取り組む動機はいわば企業の義務感でした。初期は「社会的に正しいから」、「政府や投資家の要請や顧客の調達基準に見合うように」といった外圧により取り組んでいたのです。やがて、環境問題や資源の枯渇問題への認識が進むようになると、「本格的に取り組まなければ中長期的に市場から排除され、生き残れない」とリスクマネジメント的危機感からも取り組みが進みました。これらの段階では取り組みの多くがリサイクルで、収益に結びつくケースも少なく、ともすればコスト増にもなり、いかにコストを抑えるかが命題でした。
一方で、現在では欧米を中心に、社会に貢献しながら新たな富を生み出し企業としても成長するという「レスポンシブル・ビジネス」の実践を目指す先進企業が登場してきました。国連グローバルコンパクトとアクセンチュアが2022年に行った調査によると、世界の約半数の企業がサーキュラー型ビジネスモデルへの転換に取り組んでいます。もはやサーキュラー・エコノミーに取り組まない企業が少数派となる時代もそう遅くはないでしょう。
サーキュラー・エコノミーの考え方そのものは新しいものではありませんが、なぜ今改めて注目されているのでしょうか。背景にあるのは、社会環境および消費者意識の変化と技術の進化です。社会環境の変化の代表例としては、資源制約の厳格化があります。世界は脱炭素社会に向けて動いており、日本も例外ではありません。日本政府は気候変動サミットにおいて、2030年度の削減目標をこれまでの13年度比26%減から7割以上引き上げる方針を決定しました。EUや米国もそれぞれ高い目標を掲げており、炭素税の運用なども始まっています。
このような社会環境の中、消費者意識も変化しています。エコ製品の購入実績と意向に関する調査*では、「5年前よりもエコな製品を多く購入した」人の割合が72%、「今後5年間でエコな製品の購入を増やす意向がある」人は81%と、購買における消費者のサステナビリティ志向の高まりが見られます。また必ずしも所有にはこだわらず、必要な時に利用できれば問題ないと考える消費者も増えています。
更に追い風になるのが技術の進化です。広範囲なマーケットプレイスやSNSに基づく信用創造のメカニズム、トレーサビリティ・モニタリング、遠隔操作・メンテ、課金等が安価に実現可能となったため、お客様・ビジネスパートナーと幅広く繋がるビジネスモデルが低コストで実現可能になりました。こうした状況をうけ、資産の未利用潜在価値を顕在化させて儲けるサーキュラー・エコノミービジネスモデルは持続的な成長を実現するとして期待されています。
*Accenture Global Consumer Sustainability Survey 2019
ビジネスチャンスはどこに潜んでいるのでしょうか?従来の一方通行型経済モデルにおける「無駄」を4つにカテゴライズし、全ての国・産業を包含したサーキュラー・エコノミーが2030年までにもたらす経済効果を算出しました。その結果、2030年までにサーキュラー・エコノミーにより生み出される経済効果は4兆5000億ドルにのぼると見込まれます。
従来型経済モデルにおける4つの無駄
1.
資源の「無駄」をなくす: 再生可能な原材料を繰り返し使う。経済効果は1兆7,000億ドル
2.
キャパシティの「無駄」をなくす:遊休資産のシェアリングを行う。経済効果は6,000億ドル
3.
製品のライフサイクル価値の「無駄」をなくす:製品寿命を最大化する。経済効果は9,000億ドル
4.
潜在価値の「無駄」をなくす:廃棄後の潜在価値を抽出する。経済効果は1兆3,000億ドル
サーキュラー・エコノミーが生み出す5つのビジネスモデル
サーキュラー・エコノミーの要諦は、サービス化とデータ活用です。従来、売り切りで製品を販売していた企業が製品をサービス提供すると同時に、それに付帯するサービスも同時に提供する。製品の所有権が自社にあることで、製品利用から収集したデータを顧客理解や製品設計、別のサービスに活用することで、顧客への提供価値を増大させ、新たな収益源を創出することもできます。
フィリップス社は照明器具に代わり「明るさ」をサービスとして販売しています。「明るさ」の提供に必要な照明器具の提供・設置、メンテナンスは全てサービス費用に含んでおり、「明るさ」を提供すればいいので、不要な照明の電源オフ、明るさの最適化などはすべてフィリップスに任されます。同社がワシントンD.C.の駐車場の照明を請け負ったケースでは、年間68%の電力費削減、60万ドルの管理費削減を含む年2百万ドルのコスト削減に成功しました。さらに設備費、電気代、メンテナンス費を含むサービス契約のため予算管理がシンプル化され、人件費削減にもつながりました。フィリップス社は、電力費やメンテナンス込みのサービス提供であるため、従来、電力会社やメンテナンス会社に行っていた売上を自社に取り込むことができたのと、従来の照明器具売り切り型と異なり、より長期的に安定収入を確保できました。さらに同社は、駐車場使用状況や環境条件等のデータを応用することにより、新たな収益にもつなげています。
このような価値のサービス提供モデルだと、必ずしも機器が新品である必要はなく、「製品寿命の延長」や「回収とリサイクル」といったあらゆるレベルでの再利用が行われます。さらに製品設計の段階から、分解や解体がしやすい設計や素材の選択も行われています。ビジネスモデルはそのままに「回収とリサイクル」だけやっても収益化は難しいため、サーキュラー・エコノミーを前提で事業を設計するのが肝要です。
脱炭素やネイチャーポジティブと切っても切り離せないサーキュラー・エコノミーは今後益々の拡大が見込まれます。いかに自社を中心としたサーキュラー経済圏を作れるかに企業の命運がかかっているでしょう。