ソーシャルコマース革命がもたらすショッピングの新たな未来

これらの3つのモデルの共通点は、人に備わった創造性や創意工夫、力が推進力となっていることです。ソーシャルコマースでは、誰もが自身のネットワークを収益化することができます。すでに多くの人が急速に成長する複雑なエコシステム（下図を参照）の中でネットワークの収益化を実現させています。アクセンチュアの調査によると、中国ではすでに4億6,300万人がソーシャルメディアで収益を得ています。これは大手ブランドと提携し、自らの知名度を生かして収益を上げている著名人ばかりではありません。何百万人というクリエイターやインフルエンサー、リセラーといった人々が、好きなプラットフォームを通じて収益を上げているのです。また、ソーシャルプラットフォーム間の競争の激化に伴い、プラットフォームがクリエイターにユーザー基盤の拡大を後押しするようなインセンティブを提供する例も出てきました。インフルエンサーのネットワークの拡大を背景に、大手ブランドからのパワーシフトが起こりつつあるのです。

規模の大小にかかわらず、すべてのブランドはソーシャルコマースで販売活動を行うことができます。そして、今やすべての個人が「ブランド」になったり、「ブランド」を作ったりして、市場に直接リーチできるようになりました。これは、小規模な企業や起業家にとって非常に大きな意味を持っています。これまで獲得できなかった大きな市場に、いよいよリーチできるようになるからです。従来、数百万人規模の大きな市場には、一握りの大手小売業者やブランドしかリーチできませんでした。しかし、今や数百万人の個人や小規模な企業が、広大なソーシャルコマース・エコシステムで互いに売買取引を行うことが可能です。こうした環境において、大手ブランドは今後、数千もの小規模企業との激しい競争にさらされることになります。その一例として、独立系ビューティブランドのグロウレシピ（Glow Recipe）は、2021年4月にTikTokのショッピングプログラムに参加しました。同社のトラフィックの90％は現在、同社から初めて商品を購入する消費者で占められているといいます。グロウレシピが初めてニュースで大きく取り上げられたのは、フォロワー数が700万人を超えるインフルエンサーによってTikTokビデオで紹介され、売上高が600％増を記録したときのことです¹²。

こうした変化は、ブランドや小売業者、プラットフォームにとって何を意味するのでしょうか。確実に言えることが1つあります。ソーシャルコマースは、歓迎すべきビジネスモデルだということです。プラットフォーム企業は、デジタル広告の成長の鈍化が予想される中で、新たな収益源を獲得することができます。また小売業者は、新しいタイプのショッピング体験を構築し、これまでにない方法でインフルエンサー／クリエイターとつながり、エンゲージメントを構築することができます。そしてブランドは、大手小売企業から小企業へのパワーシフトを受け入れ、小企業へのエンパワーメントを推し進めることで、ソーシャルプラットフォームを介した消費者との直接的なエンゲージメントを強化することができます。

現時点において、中国以外の市場ではまだ初期段階とはいえ、未来の一端はすでに見え始めています。たとえばナイキの取り組みは、ブランドがソーシャルコマースで何ができるかについての1つのモデルを示しています。同社が開発したコミュニティベースのアプリ「NbG（Nothing but Gold）」は、Z世代の消費者のスタイルや趣味、セルフケアに焦点を当てたコンテンツを提供し、アプリ内で直接買い物をすることができます¹³。

小売業者では、米アパレル企業のエクスプレス（Express）がインフルエンサーと定期購買者を「スタイルエディター」に位置付ける新たな取り組みを展開しています。スタイルエディターは、エクスプレスのウェブページ上に「バーチャルショップ」を開設することができ、新規の顧客を集めて売上につなげた場合、リワードが還元されます¹⁴。

またインフルエンサーにおいては、ソーシャルプラットフォームを利用して自らのブランドを確立し、収益化する例が見られます。たとえばアイテムビューティ（Item Beauty）は、TikTokのスター¹⁵が大ブレーク後、ソーシャルメディアで立ち上げたビューティ＆コスメティックのブランドです。

ソーシャルコマースの市場規模は、2025年までに約3倍に拡大する見通しです。2021年におけるグローバルのソーシャルコマースの推定売上は4,920億ドル、年平均成長率（CAGR）は26％で、2025までに市場規模は1.2兆ドルに達する計算です¹⁶。