新型コロナウイルスの危機によって、行政機関が抱える課題が顕在化し変化が後押しされました。たとえば、行政機関業務の実施場所に関する前提にも揺らぎが生じています。

アクセンチュアの最新調査によると、公共サービス従事者の42%が、自身の勤める組織の指標で見た場合、パンデミック下でリモートワークを行っても生産性は変わらなかった、または向上したと回答しています。また組織指標はないものの、生産性は変わらなかった、または向上したと思う、と回答したのは32%でした。

さらに、パンデミックによって住民 サービスの需要が急増しイノベーションが促進されました。一部の行政機関は新しいコールセンター機能を迅速に導入して、リモートでの面会や市民対応用のバーチャルアシスタントを活用することで需要に応えました。

また、この危機によって、クラウドは単に「あると良いもの」ではないことが明白になりました。絶え間なく変化する世界では、公共サービスに関する複合的な意思決定やサービスの提供を後押しするために、すぐに利用できるプラットフォームやデータが極めて重要なのです。

長期的な将来の見通しはかつてないほど不透明であり、分かっているのは、改革は始まったばかりだということです。

公共サービス機関は今、これまで体験したことのない状況に直面しています。

様々なデジタル技術を土台に広範なデジタル変革が促進され、大半のものの作成が可能になった一方で、別の見方をすれば、将来に向けた次なるビジョンが決まっていない、白紙の状態にあるとも言えます。このような状況だからこそ、ゼロから能動的に未来を形作る、一世に一度の機会かもしれません。

この課題に取り組むには、新しいタイプのリーダーシップが必要です。不確実な未来でリーダーシップを発揮するために、公共サービス機関は「変化の達人」になる必要があります。

人も世界も、今日のトリアージ（緊急度に応じた優先順位付け）を超えて、先を見据え、未来を作り始めるリーダーを必要としています。2020年のパンデミックにより、行政機関は今こそ新たな道を進まなければならないことが明らかになりました。

公共サービス機関は、短期間でイノベーションを起こせることを証明しました。古い考え方や働き方に戻る必要はありません。促進されたデジタル変革をクリアな視野でしっかりと見つめ、人、データ、テクノロジー、アーキテクチャ、エコシステムなどすべてのものを見直して体制を整えることで、より良い成果をもたらすことができます。

2020年12月、公共サービスに関する「テクノロジービジョン2021」を作成するために、アクセンチュアの調査チームは公共サービス従事者1,091人を対象に調査を行いました。その結果、情勢が一変したことと、新しいタイプのリーダーが必要であることが明らかになりました。公共サービスの視点で2021年のトレンドを一つひとつ確認し、この業界への影響と今すべきことを探っていきます。

本論考は、アクセンチュアが「テクノロジービジョン2021」で発表した5つのトレンドをベースに、公共サービスの視点で重要な示唆をまとめたものです。5つのトレンドについて、特に日本の公共サービスの視点で重要になってくるポイントは以下の通りです。それぞれのトレンドの詳細はページ上のタイトル下のタブより遷移ください。

1. テクノロジーの戦略的集積
   ガバメントクラウドの採用が始まっていますが、IaaSレベルの標準化にとどまらず、よりレイヤ―の高いサービス及び運用全体の標準化・共通化が期待されます。
2. ミラーワールド
   DXの柱の一つとしてデジタルツインの本格活用が待ったなしです。防災、感染症対策、インフラ保守などあらゆる用途で活用できますし、市民自体もデジタルツインの一部に組み込むことでより効果の高いサービスが提供できます。
3. 1人1人がテクノロジスト：テクノロジーを民主化する
   ローコードツールやRPAなどにより一人一人がテクノロジストになれる環境が整ってきていますし、デジタル庁の内製化の流れとも整合します。職員のリスキリングと民主的テクノロジーのルール整備が重要です。
4. あらゆる場所が仕事場に：自分の環境を持ち歩く
   民間ではアフターコロナにおいてもリモートワークが継続すると予測されています。政府・自治体においても一定の割合でリモートワークが標準になると思われ、そのためにもデジタルワークプレイス環境を省庁横断的に導入するなどの施策が必要となってきます。
5. マルチパーティシステム：「個」から「全体」へ
   特に住民接点に近いサービスにおいては、すべてを行政で提供するのではなくマルチパーティでシステムを連携させながらサービスを提供していくことがポイントになります。
   スーパーシティ／スマートシティにおける都市OSにおいてはすでにその考え方が具現化されています。また、この考え方は単に行政と民間という意味でのマルチパーティだけでなく、行政内部でこれまで個別に構築されていたシステムたちを、マルチパーティシステムの一員として全体を最適化していくためにも重要です。