利用者に寄り添うシステムを形作るための「合宿」
2018年度から始動した保安ネット開発プロジェクトにおいては、いきなりシステム開発に着手するのではなく、まずは徹底した調査による論点整理が行われました。実際にシステムを日常運用する地方支分部局の担当者や申請を行う事業者への聞き取りや議論を重ね、現行の手続きにおける課題や問題をどのようにして解決すべきかといったアプローチが検討されたと土居氏は振り返ります。
「実は、経産省では過去に申請の電子化プロジェクトに取り組んだことがありました。しかし、当時のシステムは『電子化ありきの電子化』といったような手段の目的化を起こしており、現場にとっては非常に使いにくいものとなっていたのです。私たちは過去の取り組みの反省内容を分析し、現場の職員にわだかまっていた電子化への不信感の払拭をプロジェクト初期の最重要テーマとしました。」(土居氏)
そのために産業保安グループでは全国の地方支分部局から担当者を集める大規模な合宿を開催しました。また、産業保安グループからも先入観や過去の方法に囚われないフレッシュな視点を取り入れるべく、若手職員が多数参加しました。
合宿初日、地方支分部局の職員の多くは産業保安グループのDXの方針やビジョンに対し、半信半疑の様子でした。しかし、現場が感じている課題である紙ベースの手続きの煩雑さと業務の多さ、法令の複雑性に由来する難しさなど、さまざまな問題点に関する発言は徐々に増えていき、合宿全体もしだいに熱を帯びたものになりました。最終日にはホワイトボードが埋まるほどの意見やアイデアが湧き出たとのことです。
「本省側でプロジェクトをリードした私たちが最初に学んだことは、DXプロジェクトで本質的に重要なことは、システムの利用者に寄り添ったものであるべきという点です。取り組み姿勢も上位下達ではなく、膝を詰めて対等な関係性で話し合う。そして経産省全体が本プロジェクトにコミットしており、多くの関係者のサポートを得ながら推進していく体制であることへの理解が現場職員の意識変革(マインドチェンジ)を推し進め、プロジェクトチームに強い一体感が生まれてきました。」(土居氏)
密なオンラインコミュニケーションの活用で、全国の拠点の生の声をつぶさに収集
合宿のほか、こうしたマインドチェンジや意見の吸い上げのため綿密なオンライン会議も活用し、本省と地方支部局を繋いだ効率的なディスカッションが浸透していました。
「オンライン会議を通じて、たくさんの率直な意見を集め、このプロジェクトでは『全国の各拠点の現場の声に耳を傾ける姿勢』を貫きました。」と、鎌田幸氏(経済産業省 産業保安グループ 電力安全課 新エネ係長)は本プロジェクトにおける創意工夫について語ります。
「プロジェクトチームでは、同時に『スピード感のある意思決定』も重視していました。統一フォーマットの確立とシステム上の課題解決を迅速に実施していったことをよく覚えています。アクセンチュアのメンバーには論点整理や解決方法の提案などでも根気強くサポートしていただきました。」(鎌田氏)